モニタ。

 放射線室での各種撮影などを従来のフィルム出力からモニタへのデジタル出力へ移行する、いわゆるフィルムレス運用に向けた検討を続けている。
 必要になってくるのはモニタの中でも特に医療用画像表示に最適化された高精細・高輝度の専用モニタだ。
 国内なら旧東京特殊電線(現在はJVCケンウッド)、言わずと知れたEIZOなどいくつかのメーカーが販売しているが、この春から検討しているのに一向にモデル機種が決まらない。
 予算化の際に院長の個人的な考えで、本来必要となる台数をはるかに下回る台数で最初の見積額を算出して提出してしまったため、その後適正な台数を購入しようとしても全く予算が足らなくなっている。
 選定と導入の担当者であるところの俺なのだが、足らない予算にDrが求める高品質を備える機種を収めるなんていう全く無理な仕事に頭を抱える日々である。
 先日、候補業者の一社がカタログ落ちの旧機種をまとまった台数確保して提案してきた。予算額にも少し背伸びすれば手が届きそうだが、性能的にはかなり怪しいシロモノだった。
 ところで、フィルムレス用の医療用モニタはモノクロ表示が重要で、カラー表示はオマケ程度の位置づけであることが多い。なぜなら日常診療で扱う画像のほとんどはモノクロのいわゆるレントゲン画像で、内視鏡検査時の画像などカラー表示が必要な場面は限られているからだ(実際、各メーカーのラインナップではパネルサイズや解像度が同一の場合モノクロ専用機種の方がはるかに高額である)。またモノクロ表示とカラー表示はそもそも業界標準の推奨輝度や色調調整値が違うため、どちらの画像を表示するかによってモニタ側の表示モードを切り替える必要がある。
 とはいえモノクロ画像だけ扱う専用の読影室とDrを確保できるようなある程度の規模の医療機関ならともかく、当院のような田舎の総合病院ではどうせ置くならどちらにも使いたいと考えてしまうのは、無理からんところなのだった。
 
 無理を言って実機を用意してもらい、放射線室の片隅に仮設して医局に評価を依頼した。
 俺としては、後年の電子カルテ更新の際に本命グレードへ一気に更新することにして、今回は格安のこの旧機種でお茶を濁してもいいのではと考えていた。今までそういう問題の先送り主義で痛い目に遭ってきた記憶は都合よくフィルタリングされている…。
 初日に実機を見聞した院長はこれでも全く問題はないと言う。モノクロ画像もよし、カラー画像も満足できる品質だと中々良い評価だ。一方で放射線技師長の評価は極めて悪かった。放射線部としては中途半端な機種を導入されるより最上位機種にするべきだと無理な主張をしているのだが、もし予算が今より潤沢であってもそれは無理な話である。院長から説得してもらうことにしよう。
 健診で胸部撮影を多用する内科のDrからも同様の評価が伝えられた。どちらかというとこれまでのフィルムを手にとって一連の撮影を比較しながら読影するスタイルだったのをどうやってモニタ上に移行するか、そちらの方が心配らしい。
 おおよそ決まりそうだと安心していたが、甘かった。外科からカラー画像の色調が破綻しており運用に堪えないと厳しい指摘を受けてしまった。俺も見てみたが赤の階調表示が不自然で、内視鏡画像などを見るとまるで血管に沿って出血があるように見えてしまう。カラーはオマケだと皆理解しているつもりなのだが、実際に選ぶ段になるとどうしても二兎を追い始めるのだ。
 どうにかならないかと業者に再調整をしてもらったが大きくは改善せず。院長はと言うと先の好評価を一変させて当該機種は選考対象から外すよう主張し出した。画像専用に設置するのだから全ての画像が必要な品質で表示できるべきだと言う。だからそれは無理だと言うのに…。
 残念ながら今回提案は却下し、別機種を再検討することになった。
 予定がどんどん遅れていく。今年中に間に合うのかよ。