結婚式。


 病院事務局当時からの後輩の結婚式に参列してきた。
 彼女は外見ではこの行き過ぎた田舎ではむしろ珍しいマイルドヤンキーに分類されるが、その実驚くほど素直で人懐っこい。しかも仕事の手が速い上に怖気づくということを知らない彼女は気難しいDrやNsとすぐに打ち解けていて、一つ仕事を任せておいて絶対安心と言える数少ない人物だった。
 オッサンの動作クロック数が極端に低下した脳内時間の感覚では「今年成人式なんです!」とうれしそうに言ってきたのがつい先日のような気がしていたが、もう24歳か。
 新郎は友人の紹介で知り合ったという男前のガテン系。その手の人の例に漏れず、話していて頭の回転の早さに驚かされた。仕事できる感じするわ…。
 お幸せに!。
 

さらば、IS11T。

 遂にIS11Tとの別れの日がやってくる。
 
 ハードウェアキーボード付きのスマートフォンを使い続けて早8年の歳月が流れた。
 俺にとって最初のスマートフォン東芝製IS02。
 スライド式フルキーボード装備で、その後の(俺にとっての)スマートフォンのあるべき姿を決定づけた金字塔的端末だったが、auにとって実質最初のスマートフォンであり完成度の低さが目に余り、何よりアプリケーションの選択肢がほとんどないWindowsMobile6.5だった点が致命傷で、従来のガラケーであるW52Tとの併用も虚しくわずか1年程で運用を終了した。
 そしてその後継機種がIS11T。3G周波数帯の整理により使用できなくなるW52Tの代替機が必要になり、また電話としてもWEB端末としても中途半端だったIS02を捨ててXPERIAにでも乗り換えようと捨て鉢になっていた俺が2013年にauショップの片隅に旧モデル扱いで打ち捨てられていたものを偶然発見して衝動買いした端末であった。
 その時点で処理速度もストレージ容量も不足気味だったが、スマホのようなハードウェアの制約が過酷な機器で流行りのゲームやアプリなど使うことはない、どうせ俺にとってモバイルの中核はノートPCなのだから、せいぜい2〜3年も使えれば十分だと割り切って購入したつもりだった。
 ところが…Android2.3、本体ストレージ容量がわずか512MB(カタログ値、しかも初回起動時で既に残り120MB)、LINEとEvernoteをインストールしたら30MBも残らないという絶望的な動作環境である。Root化してアプリを可能な限りSDカードへ移動する等考えられる対応は全てやってみたが根本的には解決できず、俺はすぐ音を上げる羽目になった。
 
 そして、せいぜい2〜3年我慢するつもりがその間に日本の携帯端末事情が坂道を転げ落ちるように悪化し東芝スマートフォン事業から撤退。他のメーカーから同じ路線の端末がわずかに発売されたものの性能的に中途半端で購入する気になれず、結局俺は5年も待つことになった。
 トドメを刺したのはLINEがVer6を最後にAndroid2.3のサポートを打ち切って、何とインストール済みの環境でも起動できないようにしてしまった事件だった。
 この頃には職場でも家族・友人とも連絡はLINEでのやり取りが多くなっていた。知っての通りLINEは開発から運用に至るまで韓国の諜報部門が関わっておりセキュリティポリシーなんぞ存在しない暗黒サービスだが、周りが使っている以上合わせないと文字通り話にならない。俺宛の連絡だけ別扱いになり、LINEグループは閲覧できず、しかもこちらからの連絡は(もうメールアドレスの交換などしなくなっていたので)Cメール・SMSを使うことになるが、相手はそんなもの普段使わないため届いても気付いてくれない。
 その間、IS11T自体も時々電話アプリが誤作動して電話を発信しようとする相手とは別の相手先にダイヤルされてしまう、容量不足でインストールアプリのアップデートができないためその他のオンラインサービスも使えない等、おおよそ電話ともIT端末とも言い難い状況が続いたのだ。
 
 もちろん事態を打開すべく様々な手を打っていた。一つが希少なハードウェアキーボード内蔵端末メーカーの新たな開拓であり、NEC Terrainの個人輸入やBlackBerryClassicの入手により端末移行の可能性を探ってみた。残念ながらどちらも縦型スレートでキーピッチが狭すぎの上、その当時の端末としてもストレージ容量が少な過ぎるという大問題があり、運用移行は断念することとなった。
 次に行ったのはハードウェアキーボードからの脱却の試みであり、実質的に日本国内のスマートフォンのほぼ全てがタッチパネル上のフリック入力で操作されているという現実から単純に俺もそれに合わせればいいじゃないかという分かりきった話だったのだが、サービスエリア等が有利なDocomoへの乗り換え準備として導入したiPhone6の上ですらフリック入力や仮想キーボード入力に耐えられず、IS11Tのキーボードスタイルと酷似した社外品のBluetoothキーボードを筐体カバー越しに貼り付けて使うという無茶をせざるを得なくなった。しかもiPhoneでは本体横置きで使用できるアプリが少なくハードウェアキーボードによる長時間・大量の文字入力は困難であった。
 このキーボードレスの方向性は俺が納得できないだけで世の中の趨勢であり、その後もWindowsPhone10動作機である8,000円叩き売り端末NuAns NEOの導入により性懲りもなく繰り返すことになる。
 こうして手元に集まってきた多数のスマートフォンであるが、これらの端末はオンラインサービスを利用する上ではIS11Tよりは圧倒的に高速だったので、自然とIS11Tはガラケー同様に電話とキャリアメールのみ、その他はスマホとしてのこれら予備機を併用する形に落ち着いた。特に最近はIS11TとiPhone6を持ち歩き、場合によってモバイルルータとしてNuAns NEOを追加するスタイルである。正直言って面倒くさい。アーキテクチャ一つ見てもIS11TはAndroidiPhone6は言わずとしれたiOS、そしてNuAns NEOはWindowsPhone10(しかも購入後1ヶ月でMicrosoftは開発終了発表)。充電用端子はMicroUSB、Lightning、USB Type-Cとバラバラである。何一つ共有できる運用環境がない。
 
 2ヶ月前。結局、ハードウェアキーボード端末をリリースし続けているのはBlackBerryのみという状況にあって、もはや他に選択肢はないと諦めてよりスペックが高い新機種が発表された時点で端末を一本化することにした。
 BlackBerryにしても、極端にキー種を切り詰められ制限が多い配列を伝統としており、特にカーソルキーがないこと、英語圏で販売されている機種であるため文字種切り替えキーがない、文字入力後の変換動作に癖がある等、長時間の入力に支障をきたしそうな点は多い。最大の問題は、海外製端末のほとんどと同じくauには対応しなかった点だ。
 まぁ、これらの点はTerrainと同じである。
 
 BlackBerry公式サイトをチェックするようになって間もなく、BlackBerry KEY2のリリースが発表された。喜ばしいことに、従来機種BlackBerry KEY1と異なりauにも対応している。
 これは買いだ。買うしかない。これ以上我慢を重ねていても、いいことは一つもない。
 直ちに公式サイトで予約。

 そして9/7、発売日と同時に手元にKEY2がやってきた…。

はてなダイアリーがサービス終了。

 いよいよサービス終了が発表されたはてなダイアリー。アカウントを作ってから10年以上経過した。
 数年前にAndroidiPhoneはてなブログアプリが稼働し、一方で動画投稿や便利だったはてなカウンターがサービス終了した際に、ダイアリー機能も間もなく終了かな?という気はしていたのだ。
 
 この備忘録のそもそもは、その昔お世話になっていたT先輩の自WEBサイトの記事数欲しさの教唆に引っかかった連中が、先輩の私物サーバ上でIBMホームページビルダーを使って同時に書き始めた思い思いの記事が発端だった。
 先輩の結婚と引っ越しでサーバ運用は不安定になり、しかもmixiなどSNSの興隆により書き手だった後輩達は自分のページに没頭してしまいWEBサイトはやがて消滅。
 それまでの記事は保存も移行もできなかったのだが、このとき俺は垂れ流し記事を粗製濫造するのが楽しくなっていて、勢いだけはそのままに、個人的にはてなダイアリーに場所を移して書き始めることにしたのだった。
 
 ここは表題通り個人的な備忘録で、この備忘録の性格に合わないものについては既に2013年頃から別のブログサービス上にいくつかアカウントを作って記事を書いている。
 プライベート・仕事・趣味についてどれだけ書きたい欲望があっても、それらを完全統合して公開していたために意図しない炎上で人生を破綻に追いやった先人達の戦訓を無駄にすることなく、俺の個人情報保護という世界で最も重要な観点からこれらのブログはシンクロして読めるようにはしないが、記事数や更新頻度についてはどちらかというとそれらのブログの方がだんだん大きくなって来て、この備忘録へは残すべきネタがあっても書けず備忘録としてちゃんと役割を果たせていない現状がある。また、下書きができていても投稿処理が面倒でクラウドストレージ上に死蔵しているテキストが積み上がってもいる。
 とはいえ、この備忘録にしか書いていない事柄も多く、それが備忘録として正しく機能する場面は多々あるため、書くのを止めるつもりはない。
 とするとどうにかこの中途半端な現状を改善しつつ、はてなダイアリーからの移転を行わなければならない。
 とりあえず、はてなブログかな。

強襲揚陸艦アルビオン。

 英海軍の強襲揚陸艦アルビオンが晴海埠頭に停泊中、艦内の一般公開を行うと聞き、散々迷った末にブリットを発進させたのは土曜の16時頃だった。
 強襲揚陸艦アルビオン。このキーワードでググっても昨日までの検索結果は恐らくガンダム0083で埋め尽くされていただろう。かく言う自分も行ってみたいとの欲求は軍ヲタ・ガノタそれぞれのものが相半ばする。
 関越自動車道から首都高へ入り、南池袋PAで休憩するまで片道8時間程度。佐世保まで片道14時間掛かったことを思えば何と近いものか。
 
 南池袋PAは俺がよく知る田舎の高速道路上のPAと異なり、道路と同じく高架の上に道路の合間を縫って置かれた狭く小さなPAだ。だから休憩仮眠と言いながら、薄いアルミの遮音壁の向こうを相当な台数の車が通過するので落ち着いて休めたものではなかった。
 徐々に白み明けていく空を周囲のビル越しに眺めながら、晴海埠頭に入る時刻を調整する。
 今回の問題は駐車場の算段を付けずに出掛けてきたことだった。曲がりなりにも客船ターミナルだから駐車場くらいはあるものと決め付けてやってきて、南池袋PAでの休憩中にようやく周辺駐車場を検索してみたところ旅客ターミナル駐車場があることを確認できた。入庫可能時刻は7:00からとのこと。
 ならば6:30頃に駐車場ゲート前に入れば混雑は避けられるだろう。
 そう考えてブリットを発進させたが、いざ首都高を降りて周辺に着いてみると、東京オリンピック選手村造成工事のため大幅に地形が変わっており、そもそも純正ナビもGoogleマップも役に立たず、駐車場どころか埠頭入口もたどり着けるか不安になってくる有様だ。
 それらしい区画を二周しても埠頭入口を発見できなかったが、通りかかったタクシーを追ってようやくたどり着いた。
 予想は当たり、先客は少なかったが、それでも3台は俺より早かった。さらに、アルビオンへの入場ゲートには徒歩の客が20人ほど待機している。
 知ってるだろアンタらも。一般公開開始は10:00からなんだぜ…。
 

 ターミナルビルの送迎用展望台からアルビオンを見る。米海軍や海自の艦艇と異なりわずかに青みがかった船体。上甲板前方にCIWSが1基、その後方に船幅いっぱいに広がる艦橋。上甲板後半はヘリ発着甲板だが、格納庫ドアは見当たらない。

 ちなみに前方にはやはり本日同様に一般公開を実施する海上自衛隊掃海母艦うらがも停泊中。用途は異なるが艦影はアルビオンと酷似している。
 さて、待機列に並んでしばらくするとうらが艦上ではラッパが吹鳴された。午前8時の国旗掲揚時刻である。2名の自衛官が艦尾旗竿に旭日旗を掲揚、動作はきっちり訓練されたとおり、一挙手まで揃えて素晴らしい。ところが一方のアルビオンはというと、うらがのラッパ吹鳴に合わせて艦首にユニオンジャックを掲揚するにはしたのだが、無愛想な艦内放送を合図に乗員1名がやってきて無造作に旗竿に旗を結び付け、ずるずるっと引き上げるだけ。ひどいやっつけ仕事に見えた。
 そこからさらに2時間、ぼんやりと空を眺めながら待つ。最寄り駅からやってきたと思われる「普通の」見学客が並び始めると列は一気に伸び、折返しながらも一区画を一周するような勢いを見せる。ああ早めに来ておいてよかった…。
 いよいよ10時。アルビオン側の受付に支援に来ている海上自衛官の日本語の案内に従い艦尾側開口部より乗艦、ウェルドック内へ入った。




 ウェルドック内は想像以上に暗い。おおすみ級はもっと明るかった覚えがある。ここで写真撮影を諦めた見学者が多数いた。ちょっと高感度に強いデジカメでなければまともな撮影は難しそうだ。
 日本には消防庁所有の民生用(ちなみに現物を仕事で撮影したことがある…)が1台しかない全地形対応車両BVS10バイキングがそこたらじゅうに転がっている。また、恐らくビーチング時に使用すると思われるカーペットローラーも1台発見。
 揚陸艇上に海兵隊員が1名、L85を構えてにこやかに見学客を出迎えていて、希望者にはそのL85を構えさせてくれるようだ。もちろん並んで触らせてもらう。

 あれ、ショートバレルのような気が。カービン仕様か。ブルパップなので元より銃口は自分に近いのだが、さらにショートバレルになると左手を迂闊に添えると指を誤射しそうな恐怖を感じる。
 
 次の順路はヘリ甲板だが、エレベータやはしごではなく長い金属製のスロープで昇降する。ヘリ甲板にも車両を積載するためのスロープだ。ゴツゴツした鉄の坂を登り切ると、ヘリ甲板には大きなテントが設置され、M2重機関銃やらを搭載した車両と銃火器海兵隊員の装備品や活動の紹介スペースになっていた。
 ここはすごかった。
 何がすごいって、銃火器海兵隊員の指導の元、全て自由に操作させてもらえたのだ。




 M2の操作が通常仕様、車両用、艦載用でそれぞれ違うことを初めて知った。機関部末端左右のグリップをそれぞれ左右の手で握り、親指で機関部中央のトリガーボタンを押して発砲するのは全仕様共通だと思っていたのだが、車両用は何であんなに撃ちにくいんだ?
 M249…ではなくL108は、トリガーを引いて撃鉄が落ちた時の銃の揺動が意外に強い。実際に連続発射すると着弾が相当バラけるように思われる。
 ウェルドック内のL85カービンに続きL85擲弾筒付きを構えてみる。第3世代型の暗視装置も普通に稼働状態で取り付けられている。覗いてみると、テント内の暗部はもちろん真夏の焼けた艦上構造物と行き来する乗員や見学客もくっきり遅延なく視認できた。
 グロック17も普通に置いてある。担当の海兵に身振り手振りで教えてもらいながら操作してみた。ベレッタ92FSと同じかと思ったら、何故か親指がさびしい。よく見てみると、撃針がない…。手動で撃針を起こすという操作ができないらしい。さらに、スライドを手前に引き切ってバレルを露出させると、これがグリップに対してえらくグラグラ揺れるのだ。発砲して排莢するまでにこんなにバレルが揺れると命中精度はとても低いように思うが、いいのか。
 どれもこれも、とにかくボルトやスライドが重い。俺のように腕力に劣ると操作が大変だ。
 
 テント内には他にもコンバットレスキューチームの装備品展示の他、気象観測隊の展示もあったが担当の女性水兵は手持ち無沙汰だった。さらに隣には調理兵が訪問国での公式なパーティに供する手の混んだ巨大なパイの実物とコースメニュー、饗応テーブルの展示まである。
 銃火器以外で特に見学客を集めていたのはレーションの試食会だった。いかにもジョンブルという風貌だが気さくな士官が一日分のキットを開封して調理を実演しながら集まった人々に振る舞っている。

 テントを出ると強烈な日差しが照りつける。艦上の公開部分は自由に行き来させてもらえるが、要所には実包を装填したL85を斜に構えた海兵が愛想笑いを浮かべながら警備している。


 ミニガンなんてモデルガンですら見たことなかった…。
 
 あっという間に時間は過ぎ去り、時計を見るともう14時だった。まだまだ見学し足りないが、明日は仕事なのでどうあってもそろそろ帰路につかなければならない。
 EOS 6DとSD1Mをぶら下げて炎天下を4時間近く歩いたおかげで足が重い。
 うらがの方は見学を断念。こちらはまだ将来見学のチャンスがあるかもしれないからな…。

FigureHeads終了。

 午後、Youtubeでフィギュアヘッズラストイベントのライブを観た。
 PS4版がリリースされてからわずか半年ほどのプレイだったが、妻に白い眼で見られながらも費やした時間は長く思い入れも少なくなかった。
 僚機を直接操作でき、しかも愛機に自由にマスコットAIを登録できるロボットFPSなんて他に例を見ない(ヲタクにとって)素晴らしいシステムだと思うのだが、ライブでは操作の高い難易度が新規ユーザ定着の障害だったとディレクターが述懐していた。俺がプレイを始めた頃には既にサービス終了が取り沙汰される程のユーザ数推移だったらしい。
 本当に今日の16:00で終わってしまうのか?
 3ヶ月前のスクウェア・エニックスからのアナウンスの後、残り僅かな時間を惜しむようにログインしマッチングを繰り返しながら、自分のいささか子供じみた狼狽と喪失感に俺は困惑していた。
 俺のような高齢者にとってコンシューマゲームはソフトウェアの買い取り制で、ハードウェアが可動する限りはいつまでも遊んでいられるものだという固定観念は未だに強固だ。だからこの喪失感は、自分のソフトウェア資産の滅失という点で納得し難いからだと昨日までの俺は思っていた。しかしお互いに砲火を交わし、あるいは敵陣地のコアまで共に攻め上げた幾多のプレイヤー達の惜別の辞をチャットルームで見るうちに、この彼らやAI達とのコミュニケーション環境が二度と戻って来ないことこそ喪失感の実態だと思い知らされた。
 だが、仕方ない。
 サーバ停止前、最後のカジュアルマッチに残念ながら敗北。イベントライブでゲームセットがコールされた後も、しばらくPS4をシャットダウンすることはできなかった。
 
 ランクスとフィギュアヘッズ達、またいずれ。

アグレッシブ。

 終業後。
 俺は遅番だった。
 他のウチの係を含めてほとんどの者が帰宅したが、隣係のNさんとH君は少し残って話し込んでいた。
 定刻になり俺は店仕舞いを始め、金庫の現金残高に誤りがないことを確認して一安心したところでNさんが話しかけてきた。
 「こないだHさんがやらかしたのって大丈夫でした?」
 「うん?やらかしたって…別に大した事じゃないよ」

 NさんとH君は昨年までHさんと同じ係にいて、仕事ぶりや性格の不一致が激しく半年で言葉も交わさなくなった間柄だ。
 先月は彼女ら3人と同じ研修に泊りがけで参加したが、その準備から食事の時間に至るまで全く無駄に神経を擦り減らされた。
 どちらからも、相手を非難する言葉が幾らでも飛び出してくる。酒を飲んでいようがいまいが、その相手がいない場面ならいつでもだ。徐々に俺に理解できる範囲を超えつつある。俺が同じ年頃だった頃、普段からこうまで誰かを誹謗し嘲笑する日々を送っていただろうか?。これは彼女らの性格に起因するのか?。今時の若者だからか?。俺が男で、彼女らが女という性差のためか?。
 少なくとも、Nさん達の態度を助長する原因の一つは知っている。Nさん達の上司もHさんを嫌っていて、Nさん達の発言や態度に同調しているせいだ。
 NさんもH君も有能で頭が切れる。経験や知識量、管理職としての能力で彼らをコントロールできないから、自分と一回り以上歳の離れた彼らと一体感を演出するために、他の誰かを敵視しているとまで思えてしまう。

 俺は彼女らと話す時、誰かへの否定や個人攻撃には絶対に同調しないようにしている。でも、なぜ彼女がこのことを知っているんだろう?。本当にマイナートラブルで、わずかな時間で幾らでもリカバリできたことだ。残念ながらウチの係の誰かがNさんたちに聞かせているのだ。
 「その件は、仕事を指示した俺やZ君が具体的手順をきちんと説明しきれていなかったことが一番の原因だから、彼女が悪いわけじゃない。マニュアル整備ができていない俺の責任だよ」
 期待したような返答がなく(少なくとも春からずっとそうしているのだが)空振りした彼女に代わってH君が言葉を継いだ。
 「ウチの係長に聞かせたいっすよ。K先輩とかに全然説明できてないし、それ改める様子ないし」
 K先輩とは体調を崩して長く病休を続けていた人だ。この春から復帰してH君やNさんと共に働いているが、本調子ではなく、またブランクが長いため仕事量に配慮が必要な状況である。
 「ほんっと、あの人達早くどっか行ってほしいんですよね。K先輩は病気だか何だか知らないけど、全然仕事しないし、できないし」
 この二人の敵意はHさんはおろか同じ係の先輩2人にも向けられている。普段は二人の愛想笑いで包み隠されているが、彼女らが真剣に仕事に向き合うが故に足並みを揃えられない者への強い不満が徐々に彼女らが囲むデスクに降り積もっているようだ。
 「Kさんは俺と同期だけど、体調を崩すまで必死にやってきてたよ。たまたま合わない上司と組むことになって、きつ過ぎる指導のせいで自分のペースを乱したけど、そんな事は働いている間にいつでも起きうる事だよ」
 「そうですか。でもそのリハビリ場所が私達の所なせいで、すごい迷惑ですよ。手数が一人分純減したのと同じですもん」
 「そうかな?毎日の様子を隣から眺めてると、電話対応も窓口業務も結構引き受けているように見えるけどなぁ」
 「見えるだけですって。私おかげで物凄く負担増えてますもん」

 いかん、これはキリがなくなる。ふと所用を思い出した体で彼らとの会話を断って帰り支度をした。
 攻撃される人達に何ら落ち度がないとまでは思わない。が、改善のための指摘や指導とは全く別の彼女らの発言をこのまま野放しにしておいてよい訳もない。彼女らの直属の上司が関係することだけに、俺から注意していいものか。

AQUOS SENSE。

 妻がスマホに乗り換えた。
 年齢を考えるともはや死ぬまでガラケーでいいのではないかとすら考えられていたのだが、義妹夫婦よりLINEかWhatsAppを常用できるよう圧力を掛けられていたのと、仕事でどうしてもスマホのアプリを使用する必要が出てきたため今回決断に至ったらしい。
 機種などこだわりは全く無く、量販店の店頭で最も安く購入できるキャリア提供のスマートフォンということで、これも今更ではあるがAQUOS SENSEが選定されたのであった。
 元々この話が出た当初、ガラケーはこのまま維持して別にSIMフリースマホ格安SIMを追加すればいいと思っていた。格安SIMなら今現在は予備機としているNEC TERRAINで使用中のso-net 0SIMを提供できるし、スマホ本体なら県都のPCショップで廃盤叩き売り中のNEXUS6でも買えばいいだろうと。
 しかしながらピーク時に数Kbpsにまで下がる渋いスループットのOsimを仕事で使うことの不安が拭えず、どうせ俺の金で買うものじゃないと思い当たった瞬間、どうでもよくなったのだった。
 
 それにしても、充電ケーブルの多様なことよ。即応用デジカメ充電器のMiniUSB、IS11T他のMicroUSB、iPhone/iPad用のLightning、そしてNuans NEOとAQUOS SENSE用のUSB Type-Cが机上にのたうっている。
 妻がこれらを判別できるか怪しいものだったのでAQUOS SENSE用には派手な原色のケーブルを使うことにした。
 使い切ることはないだろうと思っていた8ポート装備のAC-USB充電アダプタの空きが残り1ポートになってしまった…。