強襲揚陸艦アルビオン。

 英海軍の強襲揚陸艦アルビオンが晴海埠頭に停泊中、艦内の一般公開を行うと聞き、散々迷った末にブリットを発進させたのは土曜の16時頃だった。
 強襲揚陸艦アルビオン。このキーワードでググっても昨日までの検索結果は恐らくガンダム0083で埋め尽くされていただろう。かく言う自分も行ってみたいとの欲求は軍ヲタ・ガノタそれぞれのものが相半ばする。
 関越自動車道から首都高へ入り、南池袋PAで休憩するまで片道8時間程度。佐世保まで片道14時間掛かったことを思えば何と近いものか。
 
 南池袋PAは俺がよく知る田舎の高速道路上のPAと異なり、道路と同じく高架の上に道路の合間を縫って置かれた狭く小さなPAだ。だから休憩仮眠と言いながら、薄いアルミの遮音壁の向こうを相当な台数の車が通過するので落ち着いて休めたものではなかった。
 徐々に白み明けていく空を周囲のビル越しに眺めながら、晴海埠頭に入る時刻を調整する。
 今回の問題は駐車場の算段を付けずに出掛けてきたことだった。曲がりなりにも客船ターミナルだから駐車場くらいはあるものと決め付けてやってきて、南池袋PAでの休憩中にようやく周辺駐車場を検索してみたところ旅客ターミナル駐車場があることを確認できた。入庫可能時刻は7:00からとのこと。
 ならば6:30頃に駐車場ゲート前に入れば混雑は避けられるだろう。
 そう考えてブリットを発進させたが、いざ首都高を降りて周辺に着いてみると、東京オリンピック選手村造成工事のため大幅に地形が変わっており、そもそも純正ナビもGoogleマップも役に立たず、駐車場どころか埠頭入口もたどり着けるか不安になってくる有様だ。
 それらしい区画を二周しても埠頭入口を発見できなかったが、通りかかったタクシーを追ってようやくたどり着いた。
 予想は当たり、先客は少なかったが、それでも3台は俺より早かった。さらに、アルビオンへの入場ゲートには徒歩の客が20人ほど待機している。
 知ってるだろアンタらも。一般公開開始は10:00からなんだぜ…。
 

 ターミナルビルの送迎用展望台からアルビオンを見る。米海軍や海自の艦艇と異なりわずかに青みがかった船体。上甲板前方にCIWSが1基、その後方に船幅いっぱいに広がる艦橋。上甲板後半はヘリ発着甲板だが、格納庫ドアは見当たらない。

 ちなみに前方にはやはり本日同様に一般公開を実施する海上自衛隊掃海母艦うらがも停泊中。用途は異なるが艦影はアルビオンと酷似している。
 さて、待機列に並んでしばらくするとうらが艦上ではラッパが吹鳴された。午前8時の国旗掲揚時刻である。2名の自衛官が艦尾旗竿に旭日旗を掲揚、動作はきっちり訓練されたとおり、一挙手まで揃えて素晴らしい。ところが一方のアルビオンはというと、うらがのラッパ吹鳴に合わせて艦首にユニオンジャックを掲揚するにはしたのだが、無愛想な艦内放送を合図に乗員1名がやってきて無造作に旗竿に旗を結び付け、ずるずるっと引き上げるだけ。ひどいやっつけ仕事に見えた。
 そこからさらに2時間、ぼんやりと空を眺めながら待つ。最寄り駅からやってきたと思われる「普通の」見学客が並び始めると列は一気に伸び、折返しながらも一区画を一周するような勢いを見せる。ああ早めに来ておいてよかった…。
 いよいよ10時。アルビオン側の受付に支援に来ている海上自衛官の日本語の案内に従い艦尾側開口部より乗艦、ウェルドック内へ入った。




 ウェルドック内は想像以上に暗い。おおすみ級はもっと明るかった覚えがある。ここで写真撮影を諦めた見学者が多数いた。ちょっと高感度に強いデジカメでなければまともな撮影は難しそうだ。
 日本には消防庁所有の民生用(ちなみに現物を仕事で撮影したことがある…)が1台しかない全地形対応車両BVS10バイキングがそこたらじゅうに転がっている。また、恐らくビーチング時に使用すると思われるカーペットローラーも1台発見。
 揚陸艇上に海兵隊員が1名、L85を構えてにこやかに見学客を出迎えていて、希望者にはそのL85を構えさせてくれるようだ。もちろん並んで触らせてもらう。

 あれ、ショートバレルのような気が。カービン仕様か。ブルパップなので元より銃口は自分に近いのだが、さらにショートバレルになると左手を迂闊に添えると指を誤射しそうな恐怖を感じる。
 
 次の順路はヘリ甲板だが、エレベータやはしごではなく長い金属製のスロープで昇降する。ヘリ甲板にも車両を積載するためのスロープだ。ゴツゴツした鉄の坂を登り切ると、ヘリ甲板には大きなテントが設置され、M2重機関銃やらを搭載した車両と銃火器海兵隊員の装備品や活動の紹介スペースになっていた。
 ここはすごかった。
 何がすごいって、銃火器海兵隊員の指導の元、全て自由に操作させてもらえたのだ。




 M2の操作が通常仕様、車両用、艦載用でそれぞれ違うことを初めて知った。機関部末端左右のグリップをそれぞれ左右の手で握り、親指で機関部中央のトリガーボタンを押して発砲するのは全仕様共通だと思っていたのだが、車両用は何であんなに撃ちにくいんだ?
 M249…ではなくL108は、トリガーを引いて撃鉄が落ちた時の銃の揺動が意外に強い。実際に連続発射すると着弾が相当バラけるように思われる。
 ウェルドック内のL85カービンに続きL85擲弾筒付きを構えてみる。第3世代型の暗視装置も普通に稼働状態で取り付けられている。覗いてみると、テント内の暗部はもちろん真夏の焼けた艦上構造物と行き来する乗員や見学客もくっきり遅延なく視認できた。
 グロック17も普通に置いてある。担当の海兵に身振り手振りで教えてもらいながら操作してみた。ベレッタ92FSと同じかと思ったら、何故か親指がさびしい。よく見てみると、撃針がない…。手動で撃針を起こすという操作ができないらしい。さらに、スライドを手前に引き切ってバレルを露出させると、これがグリップに対してえらくグラグラ揺れるのだ。発砲して排莢するまでにこんなにバレルが揺れると命中精度はとても低いように思うが、いいのか。
 どれもこれも、とにかくボルトやスライドが重い。俺のように腕力に劣ると操作が大変だ。
 
 テント内には他にもコンバットレスキューチームの装備品展示の他、気象観測隊の展示もあったが担当の女性水兵は手持ち無沙汰だった。さらに隣には調理兵が訪問国での公式なパーティに供する手の混んだ巨大なパイの実物とコースメニュー、饗応テーブルの展示まである。
 銃火器以外で特に見学客を集めていたのはレーションの試食会だった。いかにもジョンブルという風貌だが気さくな士官が一日分のキットを開封して調理を実演しながら集まった人々に振る舞っている。

 テントを出ると強烈な日差しが照りつける。艦上の公開部分は自由に行き来させてもらえるが、要所には実包を装填したL85を斜に構えた海兵が愛想笑いを浮かべながら警備している。


 ミニガンなんてモデルガンですら見たことなかった…。
 
 あっという間に時間は過ぎ去り、時計を見るともう14時だった。まだまだ見学し足りないが、明日は仕事なのでどうあってもそろそろ帰路につかなければならない。
 EOS 6DとSD1Mをぶら下げて炎天下を4時間近く歩いたおかげで足が重い。
 うらがの方は見学を断念。こちらはまだ将来見学のチャンスがあるかもしれないからな…。