返金。

 今日は仕事納め。院長からのありがたい訓示をオフィス内の誰も聞きに行こうとしなかったので、俺が代表して行くことになった。
 そこから戻ってきた終業間際、I君から仕事のミスについて報告があった。ある診療費について患者さん本人とその家族へ二重に請求しどちらも領収済みであることが判明し、返金しなければならないという。
 原因は患者さんとその家族で診療費の分担がかなり珍しい形式で行われていて、どうも支払いの確認が双方で十分でなく遅れてしまった。督促担当者であるI君が所定の基準に従って督促状を送付したところ、それをみた患者さん本人と家族が同時に同額を当院へ入金したというものだった。
 どうすればよいかと訊ねられたが、金額もかなり高額であり、また家族の方はわざわざ当院へ来院して会計窓口で入金されていたので本来なら当院で入金の確認ができたはずの事例であるので、家族宅に直接返金と謝罪のため訪問すべきだろう。
 上司としての俺と当事者のI君の2人で伺うことにした。
 家族宅に向かう車の中で、I君はいつになく少し気落ちしている様子だった。大したことはない(金額は大したものではあったのだが)し、原因がはっきりしているのだから次から予防すれば良いと慰めたものの、I君は見かけ以上に動揺していたようで、返金対象の患者さんの氏名を確認し忘れていたり訪問すべき家族の住所も調べ忘れていて、既に陽も暮れた街角で目的の家族宅を探してあちらこちらを尋ね回ることになった。
 ようやく探し当てた目的の家族宅で、I君に代わって口上を述べお詫びした上で返金を済ませた。幸い家族の方は家族内での行き違いもあったとして特に苦情は述べられなかった。
 帰路、I君は繰り返し俺に対して謝罪していた。この返金に関してだけでなく、ここ数日あった事について彼自身が感じていたものについての謝罪の気持ちもあったように思われた。
 ミスについて責めるつもりは毛頭ない。叱責と指導は別物だ。やらかした事に自覚もなく反省もできない者も多いが、彼は今後はきちんと対処していけるだろう。