サラダのビニール。

 夜、コンサルタントの主催する診療報酬改定に関するセミナーに参加した。講師はこの業界では知らない者はいないと思われる著名人で、大掛かりな改定内容のボリュームを感じさせない簡潔で分かりやすい解説だった。
 当院の各病床の今後については、相当熟慮する必要がありそうだが…当院の意思決定は、一体どこで行われているのだろう。
  
 セミナーには俺の他、電算担当者としてY君、ボスと影ボスや別課の課長、総師長の代理として外来師長の一人が同行していた。帰宅時刻が遅くなる見込みだったので会場入りする前に夕食を済ませようという話になり、会場近くのイタリアンレストランに入った。俺だけなら夕食は抜きかさもなくばマクドナルドか吉野家かだが、そういうわけにもいかないか。
 夕食の時刻としてはまだ早いせいかその店にはまだ客が入っていなかった。何度か来た事はあるがおいしい店だと思う。
 ボスや師長が大皿で頼んだサラダを俺やY君も分けてもらった。ところが、師長が取り分けてくれた俺の取り皿の中に何かが入っている。引っ張り出してみると大きなビニール片だった。どうもレタスか何かの包装フィルムらしい。さて、店員に苦情を申し立てるべきか?。ボスや師長の注文した品だから、分けてもらった自分が言うのはやめた方がいいだろうか。二人にどうしたもんでしょう?と尋ねると、笑ってまあ死んじゃうほどでもないから、無視していいのかもね?とのこと。
 しかし、会計を済ませて店を出た後の車内で「やっぱり言っとけばよかったんじゃないの?サラダ分はチャラになったと思うけど」。
 思ったことはその場で即断即決、勇気を持って発言しなければ。それがサラダへのクレームであったとしても。
 
 食後の歓談中、ボスから最近のI君はどうか?とご下問。
 ボス配下のスタッフで、I君と最もコミュニケーションを取れると考えられているのが俺だということは理解している。もちろん、先月あたりからの出来事でその期待はやや重過ぎると分かってきた。ボスの指揮下で彼が表面上トラブルなく働けるようにするのが目的なら、それはどうにか実現できていると思う。彼は働き者で細かいミスも見逃さないし、問題が発生したときのリカバーも迅速だ。ただし細かいエピソードで周囲からの評価を下げている現状がある。
 そういえば先月の研修の際の出来事を報告していなかった。師長達がいることをすっかり忘れて、I君へのTさんの発言までを説明してしまう。途中でボスの表情が一気に曇ったところを見て気が付いたが後の祭りだった。時と場所を弁えない、配慮遠慮のなさを後悔する。
 即断即決?それはそれができる知恵を持った者の特権だ。愚か者がやれば蛮勇である。口をつぐんでいるのが誰にとっても幸いなのだろう。