寂しい記念写真。

 窓口業務を委託している派遣会社からの人で、長年当院に勤務されていたNさんが急遽退職することになった。
 この人は俺の昔の職場の先輩の奥さんだ。愛想がとてもよいので患者さん相手には中々評判が良かった。
 しかしNさんからは後任に引き継ぎ等がきちんとされないまま、職場内のリーダにもマネージャにも退職する日が正しく申告されていなかったそうで、派遣職員間では「立つ鳥、後を濁す」と酷い言われ様だった。
 年数こそ長いが、どうも同僚からすると仕事には問題が多い人だったらしい。俺は最近まで特に問題を感じたことはなかったのだが、自分が管理職になってからというもの、Nさんが何かあるごと(何か引き起こすごと)に、自分のマネージャに報告せず俺に報告してくることが多くなってようやく気づくことになった。
 叱責されるのは嫌だが、誰にも何も報告していないと言われないように、正規の指揮命令外の責任者をうまく利用していたのだ。
 
 とは言え心優しい当係の人々は、Nさんの最後の勤務日となった今日のためにお金を出し合い花束を用意し、終業時刻に贈呈式を開いた。Y君に贈呈役を引き受けてもらい、6Dで一同の集合写真を撮影した。
 派遣会社側からは誰一人出席しない、少し寂しいものだった。
 
 もちろんこの時期であるので、贈呈式後もレセプト残業が続く。
 Nさんが帰宅する前に、撮影した画像を何枚か印刷して記念品として準備した。
 Nさんに届けるため担当科の窓口を訪ねたところ、「Gungunmeteoさん、いいところに!」と笑顔を見せられた。明らかに碌でもない何かが起きていて、それを解決する手伝いをさせられるのだ。
 案の定、もう退院して料金徴収も済んだ患者さんの一部負担金について、医事システムが算出した保険点数と一部負担金額が一致しないがどうすればよいか?との相談だった。
 一部負担の算出などあなた方の専門ではないか…。と思ったが、困っている人を放っても置けないので一緒に電卓を叩いて検算した。
 途中で、Nさんが使用した計算式にちょっと信じがたい誤りがあるのを発見したが、その誤りを正した後でも結局額は不一致だった。
 誤りがレセプト点数であれ金額であれ、正しくないのなら患者さんへの返金もしくは追加徴収だ。入院費ともなればその差額も大きく、患者さんからのクレームに直結してしまう。
 だが、医事システムの不具合の可能性もある。昔から不具合が多い製品を導入しているので、俺はオペレータのデータ入力誤りよりもシステム側の不具合の可能性が高いと判断して一旦話を引き取った。
 
 自分のデスクに戻って現在のシステム担当者であるY君に調査を依頼したが、Y君にも原因は分からない。しかしY君によれば、システム側の問題よりはやはりオペレータ側の入力内容に問題があったのではないか、という。
 その内容を検証するために…つまり、Nさんが俺を利用することで避けたはずだった鬼より怖いマネージャであるKさんに状況を申し送り、検算を依頼した。
 俺ははじめ電話口でNさんが関係した案件とは明言せず、一般的にこういうケースではどうしているか?と尋ねたのだが、一瞬の沈黙の後に「Nさんの話ですよね?」と問い返された。少し前に既に金額に異常があることはマネージャ等も気付いていて、患者さんが退院する前に訂正を済ませるよう指示していたが、全くなされないままだったとのこと。
 「最後の最後まで、あの人の尻拭いをさせられるんですよ!Gungunmeteo係長どう思いますか!!」と普段から性格がキツイKさんが綺麗な顔に青筋を立てて怒っていた。