逃走車両。

 ボスが体調不良で早退した。
 所用で席を外し、しばらくして戻ると医事課内の人間が揃って頭を抱えている。どうしたのか尋ねると、この雪模様の中で追突事故を起こした加害車両が、被害者の追跡を振りきって当院の患者用駐車場に逃げ込んでいるらしいとのこと。
 んー。何、それどうせいっちゅうねん。被害者が警察呼んだのなら協力すればいいが、我々が犯人探しをするわけにも行かないだろう。凍るような寒さのなか気の毒だがそれらしい車両がいるか探してくるようにI君に指示して、申し出てきた被害者に警察を呼ぶかどうか決めてほしいと伝え、事務局長に状況を報告しておく。案の定「はぁ、で、何かしろっていうの?」とつまらない返事が返って来たので「ただの報告ですが警察が入ってきたら対応お任せします」と電話を切った所慌てて医事課へ飛んできた。
 問題の車両はすぐ見つかったが、別に隠れる様子もなく正面玄関近くの駐車エリアに普通に停められていた。かなりの高齢者が運転していたようで車内には高齢者向けの上着やカバンなどが置かれたままで、しかもドアは施錠されていなかった。確かにフロントバンパーには衝突によってできたらしい真新しい穴が開いており、ラジエータまで損傷したらしく冷却水が漏れだして駐車場路面の圧雪を溶かしていた。
 この辺は高齢者が多い。恐らく、このドライバーは今日当院に受診する予定で車で向かっている最中に事故を起こしたが、思わぬ出来事に混乱した結果、事故処理を放置してそのまま病院に来てしまったのだろう。
 総合案内担当のニチイ職員に車両ナンバーで院内に呼び出しをかけてもらい、もし顔を出してきたら警察と被害者に連絡するよう伝えてもらうことにした。
 そういうことでバタバタしていると、本日実施予定日だった院内の通信回線工事のためケーブルテレビ局のMさんが来院。作業はMさんの段取りがよく短時間で終わってしまった。帰り間際に彼女が昔同じ会社に勤めていた同僚で今は当院に勤務するNさんを探していた。都合悪く不在だったのだが、また今度時間があったらみんなで食事にでもと伝えてくださいと伝言を預かる。ここしばらくNさんは仕事で失敗が続いており元気がないので、Mさんの誘いは気分転換にちょうどいいだろう。