作文。

 ある委員会で、電子カルテ上で出力する1枚の帳票の内容について検討が進められていた。
 治療行為の可否とその費用の請求に関して事前に患者から取得しておく必要がある同意書面で、内容としては一般的な内容で大したものではなかった。たまたまその治療行為が発生することになった事例にシチュエーションが非常に特殊なものがあり、それを同意書内でどのような文言で表現すればよいだろうかと同意書の取得時に患者に説明することになる看護部がいくつかの案を作っていたが、どうもしっくりくる文面ができなかったようだ。
 電子カルテ上に帳票として投入するにはシステム管理者の作業が必要なので、看護部で今回の案件を任されたK君が俺とY君のところに相談に来ていた。そこでまだ文面が固まっていないと聞いて、俺の方で適当に文面案を作って提示したところこれで行こうという話になった。
 ところでその委員会には医事係からも委員を出しており、それはOさんであった。前回の委員会の席上、この件について特に費用請求の面で医事係として意見はないかと問われたOさんはきちんとした返答ができなかったらしい。分からないことがあれば持ち帰り検討すると答えればいいのにかなりおかしな返答をしたらしく、K君からOさんに十分に説明して次回委員会の席上で質問を受けても答えられるようにしておいてほしいと要望された。次回委員会はいつかと聞くと、何と今日だと言うではないか。
 そうは言われるが、困った。恐らくOさんに文書の説明をした途端「これ今日の話じゃないですか?どうしてもっと早くに言ってくれないんですか!時間もないし、私には分かりません!」と叫ばれて話にならないだろう。
 ボスに相談して事情を説明した。ボスもきっとOさんに今から説明を試みても聞く耳を持たないだろうから…と言う。仕方ない。その委員会に説明要員として俺も出ることにしますと言うと、ボスも二つ返事でOKを出した。急に俺が出席することにするとOさんの体面もあるだろうから、帳票データの編集担当者としての出席にしておきなさい、とはボスの配慮である。
 念のためOさんに文書について俺が出席すると言いかけたところ、全く予想通りの答えが返って来た。最後まで聞く気はなかったので「だから、説明は俺がするから気にしないでいい」と突っぱね、その足で委員長である副院長や他の主だった委員のところへ行き出席の許可をもらい、前回の指摘事項に対する変更点を説明して同意をもらっておいた。
 ボスは俺が不在の間にOさんに「あなたが正式な委員なのだから関連分野で質問を受けたら調べて説明する責任がある」と説諭したそうだが、果たして聞く耳があったかどうか。
 そして終業後に当該委員会へ出席。根回しのお陰で看護部は書面案の説明に何ら苦労することはなく、また新たに疑義が呈されることもなく閉会。
 医事係に戻ってきた後、Oさんが「特に何も質問は出なかったですね」と話しかけてきた。「前回意見を出してきたという人達のところを事前に回って根回ししてきたからだよ」と教えたが、ああそうだったんですね、と言うだけでそれが自分の仕事だとはどうにも受け取ってもらえなかったようだ。