今年の異動。

 今年の自己申告で初めて「異動してもよい」と記載して提出していた。
 記憶と集中力の減退で仕事のミスが目立ちTさんに指摘されることが続いていて、一旦どこかで自分の仕事のペースを立て直さなければならないと感じたからだ。
 自己評価も例年より低い値をつけておいた。意図的にどうこうではなくて、客観的に見てそうであろう、と自分も実感していたのだ。
 Tさんからの評価も低いはず(ただし、当人には直接通知されない仕組みなので普段の態度以外に知る方法はない)なので、恐らく今年は異動になると半ば確信を持っていた。これには補強材料があって、一昨年に事務局長から突きつけられていた医事係の人員削減が進んでいなかったのだが、Tさんが着任したことによって俺の担当業務の受け皿ができたので、俺が外れて後任が来なければ単純に1名削減にできる。
 ところが…。
 
 今日出勤してしばらく経った頃、総務課からの呼び出しがあった。
 対象はTさんと俺、隣のSさんの三人である。
 これは異動の内示対象であることを示しており、つまり俺は希望通り異動が叶うということだ。しかし俺はともかくTさんとSさんは何故?。
 雨の中出頭して見ると衝撃の内示が待っていた。
 Tさんが医事係を去り、代わりに俺が係長になるという。
 人事の連中は俺に少人数とは言え組織管理ができると本気で思っているのだろうか?。俺の自己申告を本当に読んでの判断か?。
 帳簿に精緻で保険請求の管理業務には最適なTさんだから、このまま数年は続投してその後新たにボスになればよかったのだ。
 
 そして3年お世話になったボスも別部門へ異動する。ボスは長年医事業務に専従してきたが、今回事務局長の直下で病院経営に直接参画することになる。昭和の中期に設立された当院において、医事業務の生え抜きで院内総括的な立場につくのはボスが初めてではないか。
 その代わりにSさんが新たに俺のボスになるという。Sさんもまたボスと同様に医事が長く知識と経験は並び立つ人はいないが、近年は医事から離れて医師事務補助組織の立ち上げと教育に力を入れていた。何とそちらと兼務になるらしい。
 医事業務の経験豊かなベテランがまた一人医事係を離れていく。
 医事係に戻って、終業までの長い時間、オフィスの中は普段以上に静かだった。
 
 終業後、ボスと俺の二人だけとなってから、今後の医事係と、俺の仕事についてボスの考えを伺った。
 医事係の本来業務である保険請求について、施設基準の管理や病棟機能の切り替えなど別部門が主に事務処理を担当してきた部分を引き受けるべきとのこと。施設基準は病院の箱物・設備などハードウェアと各職種別の人員数の充足や運用方法などのソフトウェアの2つを満たす必要があるが、収益面からみた基準達成の目的は基準に応じた診療報酬の確保に他ならないからだが、膨大な基準の達成状況や経年変動を常に管理し続けていくのは中々難しく、また医事係が引き受けるのならその主務者は俺である。とすれば、システム関連業務は今後Y君の指導でI君への教育を進め、近いうちにこの二人に一任して手を引くべきだろう。
 また気難しい職員がいるこの係で新たに業務分担を見直していかなければならない。ボスはある程度の腹案を残していくそうだが、決めるのは俺の仕事だ。概要を見せるだけで適応して前任者より素晴らしい成果を残す者もいれば、一文字一句手順を定めないと一歩も動こうとしない者もいる。迂闊に引っ掻き回して業務を止めないよう慎重に行く必要があるが、そもそも皆俺の指揮に従うのか…?。