業務指導。

 労災で長期間治療を受けられていた患者さんが先日亡くなった。休業補償給付を受けるための証明書記載を患者の遺族から求められて窓口の派遣従業員が受理したが、Drへの依頼後実際には記載がされないまま滞っていて遺族との約束していた提出期限に間に合わなかったらしい。遺族の中で気の強い人が土曜日に苦情を入れにきて、その対応をした派遣さんの一人が剣幕に負けて書面を交付してしまった。きちんと完成された書面だったらよかったが、Drの記載欄は内容に矛盾があり欠落もあって提出しても通用する内容ではなかったことが今日になって判明し、どうやってリカバリすればよいでしょうかと関係した派遣さん達が俺のところへやってきた。
 本来そういった書面は派遣さん達の最上位にいるマネージャと、病院職員側としては俺が点検して問題がなければ提出の許可を出すのだが、今回は休診日で俺が不在だったため派遣さんの判断で勝手に出してしまったのだった。その記載の誤りは正直一読すればすぐ気がつくレベルのもので、記載したDrも担当の派遣さんも多分自己点検をしていないのだろうと容易に想像できてしまうような稚拙なミスだった。派遣さん達の肩を持つとしたら、誤りの大部分はDrの記載部分であったことか。
 しかし悪いことに受け取った遺族の中でも何人かの手を経て労基署へ提出されるらしいとのことで、謝罪はできても書面の返却を求めるのは難しい。遺族の方にこれ以上迷惑をかけることは心苦しいので、最終的な提出先は分かっているのだから当該労基署へ先回りして当該書面を押さえて完成させればいいだろう。
 まぁ、そのように対処を説明した俺はそれでほぼ解決だ。と、思っていた。
 ところが、派遣さん側のマネージャがその関係者を呼びつけて午前の診療が忙しい時間帯から吊し上げを始めてしまった。マネージャの席は我々医事課の中にあるから一部始終は嫌でも目に入ってくる(正確に言えば俺の席の真後ろだ)。
 マネージャが言うことは確かに間違っていない。書面の記載でこんな2重・3重の点検を行うのは直接書面を取り扱う担当者の仕事の質が低いからで、信用に足るだけの仕事をしていればそんなものはいらない。書面の提出ルールが満たせないと考えたら管理者に相談して指示を仰ぐか、さもなくば事情を説明して翌日正確を期して交付できるよう準備するべきではなかったか。そもそもDrは書類作成を怠りがちだから、それに気配りをして催促もし、依頼者から苦情を受けるような遅滞を未然に防ぐべきだ。と。
 しかしこのマネージャは勢いに乗ってくると怒りの流れが脱線を始める。去年までいた○○さんの仕事のミスが多かったところが後任であるあなた方にも感染っているんじゃないか。だから安心して業務を一任できないままだ。そんなことで派遣会社の看板に泥を塗って評価を下げ続けているのに、自覚が足りない、その他その他…。
 怒りは分かった。指摘事項は網羅されたし、関係者もよく理解した。説諭は十分ではないか。そう言いたいのだが、派遣会社側内の業務指導については当院側職員は横槍を入れてはならないとされているので我々は黙ってそれを聞いているしかない。そのうち、派遣さん達の何人かが泣き出した。
 20分ほど説教が続きようやく彼女らはマネージャから解放されたが、泣きはらした目で外来窓口業務をさせられることになる。
 実は今月だけでも3度めくらいの話だ。業務上の問題・トラブルが多いのは事実だが、もっとうまい指導の仕方もあるだろうに…。