聞き役くらいは。

 労災入院の患者さんに関する連絡のため病棟へ行き、その病棟の担当である派遣職員さんと話していた。ウチのI君とは対局のリア充の権化のような女性である。
 本題はあっという間に終わったのだが、その職員さんはまだ何か言いたげな様子で俺を引き止める。
 この人は先日のマネージャからの業務指導の一件で指弾された一人だ。多分そのことだろうと思い話に乗った。
 指導のきっかけになった労災に関する書面の顛末について気にするので、それはどうにでもなるから大丈夫だと答えた。彼女はその書面については実はほとんど無関係で、たまたまその書面の取扱い担当だった別の派遣職員さんと一緒にいたところを呼び付けられただけでなぜまとめて叱責を受けたのか分からないと言う。
 勤務年数がかなり長くベテランである彼女だから、後輩たちのリーダー役として色んな局面で立ち会わされざるを得ないとも思うし、それはマネージャからの信頼の裏返しでしょうと言うと「今の病棟の仕事でももういっぱいで、他の職員のことも他の部門のことも見てあげる余裕なんかないんです」と、ずっと笑顔だった表情が一瞬だけ真顔に戻った。
 この人との付き合いはある程度長く、仕事ができることも打たれ強い性格であることも知っているつもりだったが、ちょっと様子が違うように思える。
 しばらく彼女の様子を伺うため昔話など振りながら立ち話を続けていたが、最近入ったばかりの派遣職員さんが別件でやってきたので彼女に話しの相手を任せて引き上げた。
 ベテランの彼女にまで何かあれば業務にも組織にも大打撃である。
 どうしてあげることができるのやら…。