調査の予定。

 来月予定されている国の適時調査に備えて、電子カルテ上の記録に不備がないか確認のためS係長とY君、自分の3人で打ち合わせ。電子カルテ上では診療記録の一部として残すべき文書を添付ファイルとして管理できる。作成や編集は医師を始めそれぞれの文書の所管元部門が行えるよう権限が定義されているが、どの部門も忘れがちなのは最終的に文書を保存する際に必要な確定処理だ。特に3交替制で入れ替わりながら操作を行うNsに目立つ。調べるとかなりの件数で未確定のまま残っていることが分かる。単に処理し忘れたものが多いので、作成者に確定処理を励行するよう通知を出すことになる。
 この調査では、もし診療体制や施設の実態に事前の申請と異なる点が見つかれば、それに基づいてこれまで保険請求してきた診療報酬を返納させられる恐れがある。
 医療機関が標ぼうする施設基準というのはかなり厳格に定めがあるが、実際には患者さん向けの書面の提示の有無や器具の保管場所、あるいはNsの待機場所など病院ごとの運用によって大きく異る部分がある。それらについては、調査員に対して医療機関側がちゃんと要求された基準を満たせていることを証明しなければならない。また、最近では電子カルテへの入力や情報の保存内容についても厳しい点検を受けることになる。
 医療機関側の思い違いで施設基準を誤って申請していたり、あるいは実態に問題がないのに、説明員の言葉ひとつで調査員に理解してもらえず、基準未了と判定される事例が他医療機関でこれまでも大量にあった。また実際に返納となった場合には、過去何年にもさかのぼって患者さんの毎日の請求書を自己負担分と保険請求分でそれぞれ再計算し返金を行わなければならない。患者さんに大変な迷惑がかかるだけでなく、当然玉突き事故のように保険者からも被保険者への返金が伴うため多方面に多大な迷惑をかけることになってしまう。
 当係のS次長は長年の経験からその危険は十分理解しているのだが、なぜか事務部門のトップである事務局長の反応が鈍い。まずカルテ運用に直接関わる部門の長を集めて問題点の洗い出しを行おうと提案したが「必要がない」との一点張りだ。何かあったら責任を問われるのは局長自身のはずなのだが…。院長・副院長への説明はしたかと聞くと、調査の前日に話せばいいのではないかと意味の分からない返事が帰ってきた。後一ヶ月の僅かな猶予の間に院内の業務点検を済ませ、問題が見つかれば改善しなければならないのに、そんな気はさらさらないように思われる。
 S次長が不在の折を狙ったかのように、医事係に局長が現れた。打ち合わせの話を振ってみると、どうもS次長などに叩かれまくってどうにか開く気にはなったものの、自分たち事務局と医事係だけでやろうと思っているらしい。Y君に「電子カルテはNsには関係ないもので間違いないか」と聞く。呆気にとられて言葉が出てこないY君に代わって、看護記録など入院診療記録の大部分がNsによるものでDrとNsの記載で半々と思ってもらって間違いないと説明すると、ああそうかと表面上理解したような表情で「打ち合わせには私は出ないので後はI次長に任せる」と無責任な言葉が帰ってきた。
 どうするんだ一体。