モギと遊ぶ。

 猫のモギが俺の顔を見つけて寄ってきた。たまにしか帰宅しないのに顔を覚えていて実に可愛い奴である。猫免疫不全ウイルス感染症にかかってしまいここ半年ほどは体調不良に苦しんでいるが、妹が定期的に動物病院へ連れて行っているため普段の生活には今のところ極端な悪影響は出ていないそうだ。
 俺が立ってプリンタを見ていると、足にしがみついて鳴きながら構ってよアピール。プリンタの方はどうにもならないのでモギを構うことにする。
 抱き上げると長い尻尾をブンブン振って頭を撫でるのを待ち、片手を挙げると自分から掌に頭を擦りつけてくる。母猫のヨモギが生んだ兄妹の中では一番愛想良い。姉妹のミーちゃんはというと、特にこちらに関心がないようでコタツの掛け布団の上で丸くなっていた。逃げ出さないところを見ると俺の顔を忘れたわけではないようだ。
 この家には車庫に住み着いた別の母猫が生んだ兄妹の一族も同居している。当初は数も多くヨモギ一族を駆逐しかねない勢いだったが、事故や病気で徐々に数が減っていき、今は3頭だけになっている。ヨモギ一族とはあまり中が良い訳ではないが、暖かい居間やペット用餌場など生活リソースを平和裏に共有して住んでいる。
 この車庫一族は俺が家を出てから入れ替わりにやってきたので、俺のことは家族ではなくよそ者だと認識している。俺がたまにやってくると足音を聞いたあたりで慌てて2階や外へ逃げていくのだが、今時は寒いせいかそっとコタツの中に潜る程度だ。
 俺が夕食を食べて来なかったと知って母が適当に作ったチャーハンと残り物のうどんを出してくれた。台所のテーブルに着いて食べていると、ミーちゃんが何か分けてくれないかという顔で椅子の下から見上げてくるのでうどんの小さな切れ端をやってみた。
 猫でも加熱してアルファ化してあれば小麦もコメも食べるのだが、ミーちゃんは少し匂いを嗅いで、魚の切り身ではなかったことにやや落胆した風であったがかじって飲み込み、おかわりを要求してきた。それではともう一切取ってやると、またかよ…という顔で今度は口を付けずに立ち去った。
 入れ替わりに車庫一族のしーちゃんがやってきて、ミーちゃんが置いていったうどんの切れ端を一口で飲み込むと、またおかわりを要求してくる。ところが、しーちゃんは食べ物は欲しいが決して俺を信用しているわけではないので、足を動かせば飛ぶように後退り、箸を上げれば驚いて身を低くし、終始ビクビクしっぱなしである。
 残念なことに、同居の猫の何匹かにもFIV陽性のものがいるらしい。