妹と就職と彼氏。

 そういえば、先日ある人から父の撮った写真が新聞に掲載されたという話を聞かされていた。そのことを言うと、父はいそいそと自室に戻って一枚の写真を持ってきた。どこかの夜景を露光しながらズームして撮ったもので、確かに画面内の光点の配置や輝線のバランスが綺麗だったが、こういうある意味写実的でない写真が新聞のコンテストに載るというのは意外だった。もちろん父には言わなかったが。昨年、地元で出版された公募写真入りカレンダーに父が撮った風景とイベント写真が数枚掲載されたのだが、そのカレンダーに掲載されていた他の撮影者のほぼ同様な意図の写真と比べればマシのような気がした。
 再び父が自室に引っ込んだあと、どういう話の流れだったかいつの間にか妹が就職していたことを知った。フルタイムではなくパートなのだが、この不景気によく採用してくれる会社があったものだと言うと、独身の若い女の子を事務員に使いたいという会社が自宅警備員をしているうちの妹の話を聞きつけて頼みにきたらしい。妹はあまり勤労意欲がないので、来春高卒の女の子を採用するまでの間だけでもということで務めることにしたという。
 だったらそのまま続ければいいじゃないか、別に今からどこか遠くに出ていくつもりもないのだろう?と言った。昔から、一旦就職すればこの田舎から出ていくのは大変だから最初から都会で職を探せばいい、とりあえず県都が近くて楽だろうから、弟のところにでも間借りして就職活動するのが手っ取り早いという話を兄弟で妹に言っていたのだが、引っ込み思案な妹はあまり気が進まなないようで何も行動に移す様子はなかったのだ。
 
 なるほど、プリンタを修理に出せないというのはこの年末も仕事で忙しいからかというと、そうでもないという返事。聞き返すと、母が驚きの一言を返してきた。
 何とこの年末の休み、妹が彼氏とデートだというではないか。
 最近彼氏ができたという話は聞いていなかった。もちろん妹本人は「彼氏じゃないしデートでもない」と否定する。青年団つながりか?と聞くと、高校の頃の先輩だそうだ。
 ああ、確か実家が県都にあって、卒業後に結構大きな会社に入って東京で暮らしているというのは、妹自身から昔聞いた覚えがある。
 そういう話が本人から漏れてきていたということは、本人も普段から意識はする相手ということなのかもしれない。
 彼氏が年末年始の帰省で県都に帰ってくるのでそこで会うのだそうだ。日帰りは難しいので泊まってくるというので、土日・祝日はラブホも高いから気をつけろと注意すると「相手とは別に弟の家に泊めてもらう」という。
 家族に聞かれればそう答えるしかないのかもしれないが、もし弟の家に行くのであれば彼氏も一緒に連れて行って弟に面相通しをしておいた方がいいと言っておいた。パチンコ・風俗と遊びほうけている奴ではあるが、若い頃からおかしな苦労をしてきただけあって人を見る目は家族の中でもある方だし、これから付き合いが続くのなら一番口うるさい奴に真っ先に紹介して顔なじみにしてもらうのがいい。
 大昔に家にやってきた彼氏候補はひどかった。それこそ妹は男友達の一人だと思っていたようだが、やはり県都に住んでいたこの相手は仕事がなく遊ぶ余裕もなかったらしく、妹と結婚してこの実家に入り、こちらで仕事を見つけて働きたいと言っていた。県都で仕事が見つからないのに、この田舎に来て何が見つかると思っているのだろう。たまたま帰省していてこの男を一目見た弟は一言「兄貴、あいつはダメだ、俺とおんなじクズ野郎だよ」と斬って捨てた。
 妹もそろそろ浮いた話の一つでもないと困る年齢だから、これはこれでよい状況だと思った。で、父に話してあるのかというと「言ってないし知らないはず」とのこと。長く手元に置いていた娘に彼氏が出来たと聞けば、心中穏やかではいられないだろう…。
 
 日付が変わる少し前に帰宅。義父が居間の俺の定位置に布団を敷かれて休んでいた。妻が義両親用の年賀状を準備していたそうで、気に入った柄を選んでもらいプリンタで印刷。