変人アピール。

 Nさんからの急な依頼で、別業務担当のSi君の運転する車で外回りへ出た。奥さんが米国人で結婚前からうちの妻と友達付き合いをしているが、俺とSi君はあまり話をしたことがなかったのでいい機会だった。
 かつて自分の先任であったD君の話題になった。
 D君はアニメやゲーム、サブカル系に強く小学生の頃から映像編集が趣味、ITでは昔からアップル製品一択、自宅は海外で買ってきた謎のオブジェなどが大量に転がっていて「あやしい男」と言われているが、Si君いわく「いい年して変わっている自分アピールが過ぎて嫌味」に思えるらしい。S君自身が同じように変人アピールしているので余計に気になってしまうとのこと。
 変人と言えば俺だって相当変わっているぜ、と言うと「Gungunmeteoさんのは天然ですからそういう話にはならないんですよ」ときた。
 外回りのついでにあまり使用されていない出先施設の除雪状況の点検をしてきたのだが、撮影した記録写真を再生してみると毎回わざとらしいポーズで映り込むSi君がいた。
 君もなかなか変わり者だな…。
 
 終業時刻が過ぎて間もなく、仕事をしている俺の背後に立つ気配。振り返るとNさんで「今日急に仕事を頼んで悪かったな。ぜひお礼をしたいんだが」とニヤリ。
 今月に入ってからあまり飲みに出ていなかったので喜んで同伴させてもらう。
 Nさんの直属の部下であるS君とともにいつもの店へ。
 Nさんの業務には人事も入っているので自然と話題は今年の人事評価基準について進み、やがて課内にいる問題児A君について。
 協調性がほとんどなく、自分が思い立ったことや事前に決まっていたスケジュールを変更したりできず、不意の邪魔が入ったり思い通りにならないことが起きると些細なことでも激昂し抑えが効かなくなる。そういう時には上司であろうがお客であろうが「だから!」「あんたは!」などと暴言を吐いてしまう。今月に入っても何度か職場で罵声を挙げ、課長から口頭注意を受けていた。
 忙しいから他人の仕事は手伝えない、他人は全て自分の仕事量とは比較にならないくらい小さな仕事しかできていないと言うのだが、では実際にどれだけ業務をこなしているのかといえば軽微な書類作成だけ。しかもミスが多く、ミスの原因は「間違うような前例を作った他人が悪い」。どうもマニュアル的なものがないと仕事を覚えられず、一度手順をを覚えてしまうと、全く訂正が効かなくなるようだ。
 「俺を怒らせるような異常事態を作る他人が悪い、俺以外の他人は馬鹿しかおらず全ての問題の原因は俺以外の全ての人間にある」と公言してはばからない。若い頃には(今も若いが…)先輩に殴りかかるなど事件を起こし要注意人物とされている。
 彼と仕事を共にする若手が「あんなキ○ガイより僕らの給料が少ないのはおかしいでしょう」と苦情を申し立て、彼の上司は扱いに困って心労が重なっているらしい。
 S君はA君と高校の同窓だったそうだが、当時は学年でもトップクラスの成績だったが人物像としては目立つような性格ではなかったという。
 最近になって課長を初め人事関係者とA君本人、家族を交えて面談をしたところ「この世で彼を制御できるのは母親ひとりだけ」とわかったらしい。
 母親との関係性やスケジュールパニックから見て、個人的にはどう考えてもアルペルガーか自閉スペクトラムの典型的な例だと思うのだが、もちろんそういうことは人事業務に関係しない俺の口からは言えた話ではない。ただ、性格に問題があり何らかの人格障害にカテゴライズされるのでは?とは思われているそうで、「家族が療育を実質放棄して放任してきたためか、誰にも病識がないのが最大の問題だ」という。
 本人に病識があって治療を続けてさえくれれば、本人へのフォローを含め適切な業務配置の方法はあるのだそうだ。ところがA君の場合は本人がそのような特別扱いを拒む。自分の能力が不当に低く捉えられてそのような扱いをうけるのだ、特別扱いならばもっと高い評価をされるべきで、病人扱いされる理由がわからない、と。
 「このまま行くと、春までには一度懲戒処分の対象になるだろうね」とNさん。「懲戒」の趣旨が当人に理解できるか否かより、やらないと若い者に示しがつかないという。
 懲戒どころかクビにしろという声をよく聞くのだが、彼がある意味で障害者であるという認識もあり(もっとも本人が診断書を示したわけでもないが)、それを理由に解雇というのはしにくいこともあるのかもしれない。
 
 俺自身の評価を尋ねると「君は究極の仕事先送り男だ」とのこと。自覚はあるのでぐぅの音も出ない。懲戒の対象にならないようにさっさと仕事を済まさねば…。 
 
 2軒目で、Nさんが寝入ったところをタクシーに押し込み、今夜は解散。