仕事納めに。

 今年の診療日も今日で終わり。
 とは言え医事関係者はレセプト業務があるので、まず業務委託先の派遣会社の皆さんは年末年始とも交替で出勤するし、俺とY君は点検用レセプトの発行のため何度か出勤する予定だ。
 いつもは仕事のトラブルで怒鳴り合いもしてみせる派遣会社のリーダと医事係も今日は笑顔で年末の挨拶を交わす。
 
 20時頃、Sさんと二人でオフィスに残り残業しているとZ君から電話があった。遠回しな理由を使っていたが、要は近くの店で飲んでいるが出て来ないかという話だ。
 先月ある店で食事会を催した際の2次会・3次会で支払いがまだになっている店があると幹事のH君から聞いていたので、そこへの支払いに行くことにして職場を出た。
 Z君と一緒にいたのはゲーマーで知られるT君だった。Z君とは彼が最近購入したEOS 70Dの話題、T君とは家庭用ゲーム機の話を使い分けたがあまり盛り上がらない。そもそもZ君がそれほど飲みたがっていない様子だ。恐らく違う誰かを誘ったが袖をふられて俺を代わりに呼んだのだろうと想像したが、本人曰く今同じ職場に勤める少し年上の女性を誘って失敗したらしい。
 同じ店に総務課のK補佐とS係長が居合わせた。S係長は先日の俺の代休消化手続きに関してウチのT係長と口論していた相手だ。あの件は俺が代休予定日に出勤したことが発端だった。俺は出てきた仕事を無視するわけにもいかなかったが、規則は規則として総務も曲げるわけにもいかずに起きたことだ。俺の方の事情を説明したが、S係長は以前俺と同じ部署で仕事をしていた時にシステム障害で頻繁に呼び出されていた様子を知っており、最初からそうだと分かっていたが、あの時T係長が特に例外扱いを主張してきたから意見がぶつかることになったので仕方がないと答えた。
 その内ある部門の一団がやって来た。比較的年齢が若い者が多く、Z君は顔見知りの女の子を見つけては手を振るが皆つれない態度である。Z君が酔うと人懐っこさが行き過ぎてよく相手に抱きつくという噂が流れたのはそうそう昔の話ではない。あの女の子達も先輩からちゃんとそういう話を引き継いでいるのだ。
 ところが一人こっちの席に移ってきた物好きがいた。T君と去年まで同じ部署にいたNちゃんで、T君が直前にしていたゲームの話題に乗って色々と話していた。職場の中に他にゲーマーはいないのかと聞かれて(俺がXBOXユーザであることは黙っていたが)ウチの係にいるI君は最強レベルだろうと紹介したが、聞くとこの子はI君の一つ年下で同期だという。しかもI君が片思いして密かな騒ぎとなったMちゃんとも友達で、その一件については全て知っている様子だった。
 同期である以上この先どうしてもI君との付き合いはあるのだろうからうまくやっていく方法はないかと尋ねられて、T君と一緒に危険なキーワードを教えてあげた。
 つまり「私どっちかっていうと鉄拳派なんです」「アケコン2つ持ってます」「シリーズで一番かっこいいのはブライアンです」
 この3つを彼の前でうっかり口走ることさえなければ、多分大丈夫だ…いや、本当にそうだろうか?。
 
 河岸を変えて次の店に入ると、以前病院に勤務したことがある先輩達が勢揃いしていた。Y先輩はいつもどおり、飲んでいないならブリットで送れと言ってきた。残念ながらご予約を頂いておりませんと返したが、ちょうど彼女らはこれから帰るところだった。
 カウンターに付いてふと隣を見ると、そこにはZ君と同じ部署の先輩と、そして今夜Z君が誘いたかった当の本人が仲良く並んでいた。
 それを見て一気に落ち込むZ君。
 これはどうしてあげることもできなさそうだ…。しかしZ君、君はいい加減自分が家庭持ちだということを理解すべきだと思うよ。