布教活動。
Hさんが、東京でのレアなイベントチケットが取れたのにコロナ禍で中止になったと嘆いていたのは今月の初めのことだ。
彼女が以前からハマっているのはデジモンとFGO。それでどちらも息が長いコンテンツだから、ほとぼりが冷めた頃に改めてイベントが打たれるから気に病まなくていいだろうと言った。
しかし彼女はついと首を傾げた後、違いますよと口を尖らせる。
Hさんが新たに何にハマったのか、俺は間もなく知ることとなった。
昨夜は俺の宿直だった。
「Gungunmeteoさんが暇つぶしに困らないよう『いいもの』持っていってあげますよ」
そういう予告を受けていた。
終業時刻を過ぎ、俺が宿直室に移って始業準備…という名の私物のVAIOを広げてモバイル回線を開通させネット環境の構築をしていると、やたらと重そうな紙バックを手に持ち満面の笑みを浮かべたHさんが現れた。
「さあ!これですよこれ」
ドサリと置かれた紙バックの中には、コミック「鬼滅の刃」1巻から19巻が詰まっていた。
「いいですか?残念ながら私2巻だけ持ってないんです。でも安心してください!1巻読み終わったら、Amazonプライムビデオでアニメ版の4話から7話まで見てください。それで2巻相当です。そっから3巻読み始めれば全く途切れなく話が追えますから!」
彼女は一気にまくし立てた。
「お…お前、俺がアマプラに入っているような金持ちに見えるのか?」
「何言ってるんすか」
Hさんの冷たい視線はBBKEY2で開いていたAmazonアプリの画面に向けられていた。
「アマプラ30日無料体験使ってないじゃないですか。今使わずに何時使うんすか」
「お…おぅ…」
そして俺は、翌朝7時まで一睡もせずに19巻まで読破することとなった。
おいこれ…るろうに剣心くらいには面白いぞ。