あきしお。

 再び歩道橋に戻り、そこからショッピングモールを通り抜けて「てつのくじら館」へ。こちらは時間が遅いせいかあまり見学者もおらず静かだ。館内の職員はボランティアの腕章をつけた人以外はみんな海自隊員なのか、全員が制服を着用している。
 館内の一般展示は海上自衛隊そのものの解説、それから潜水艦に関するもの、機雷掃海に関するものになっている。どうやら17時には閉館のようで、館内の展示物はそれなりにちら見で済ませ、本命の「あきしお」の見学に進む。

 外見からはどこから乗艦するのか分からなかったが、船殻の中央に水平の出入り口を開けてしまって、本館と連絡通路で接続されていた。甲板のハッチから出入りすれば雰囲気はOKだと思ったのだが…。他の家族連れと一緒に奥へ案内される。
 通路も部屋もかなり狭く、人が一人通り抜けるのがやっとだ。要所にはボランティアが立っていて見学者の質問に答えてくれる。入り口から少し進むと食堂と3段ベッド、さらに奥には艦長室があり、突き当りが発令所だった。
 発令所内は(今までの順路も含めて)恐らくはかなりの器材が撤去されているようで、天井から中央に突き出した2本の潜望鏡以外には、配線・配管やダミーのディスプレイが「それっぽく」並んでいるだけの、あまりリアルさがない場所だった。そうは言ってもここ以上にリアルな潜水艦の内部などないわけだが…。
 発令所内は写真撮影禁止だったが潜望鏡は実際に使っていいとのこと。さっそく近くの1基を操作しようとするが、ハンドルもムーブメントも全て固定されていて動かす事はできなかった。ファインダーを覗いてみても、どうにもフォーカスが合わないとてもぼんやりとした画しか見えない。発令所内にはボランティアではない自衛官がいたので操作方法を尋ねてみようと思ったが、後ろから来る見学者に押しやられて部屋を出ざるを得なくなった。閉館時間が近いので後ろの方からボランティアが前進するよう急かしているらしい。
 都合、艦内にいたのは10分程度。出口から連絡通路に出ると、船殻が手で触れられそうなほど近くにあった。私のと同じキスデジXを持った老人がボランティアにサブマリナーの給与について質問しているのを聞きながら、船殻表面を観察した。外板を接合する溶接部分は意外にも一般の船舶のと同じ程度の造作だった。航行時の静音性に配慮してもっと表面の仕上げを平滑になるように留意しているかと思っていた。また喫水線を挟んで上下には、膨大な数のパッチ当てがされていた。停泊中や水上航行中に何かに衝突した時にできた傷を埋めたのだろうか?先ほどのボランティアに聞いてみようと振り返ると、もうそこには誰もいなかった。
 慌てて館内に戻り、順路を辿って出口に向かった。途中、大戦中に使用されていた日米両国の潜水艦用の双眼鏡が使用可能な状態で展示されていた。もちろん両方とも覗いてみたが、米軍のものは私が今ぶらさげているキスデジX+SIGMA 18-200mmと対して変わらない性能だったのに比べ、日本海軍のものはそこから沖合いに停泊するおおすみ級の艦名が普通に読み取れるほど高倍率で鮮明な視界で驚いた。先ほど艦内で覗いた潜望鏡の性能は時期的にもっと向上しているはずだから、展示の際に敢えて中間レンズを抜くなどして性能を下げていたのかもしれない。
 建物を出ると、玄関では2人の自衛官が門扉を閉める準備をしていた。回りを見ると、見学客は誰もいない…どうやら私が最後だったらしい。謝りながら通してもらった。

 それにしても「本日はありがとうございました」と深深とお辞儀をする自衛官。何だか…。