新人君。

 今日は月例のレセプト総括で休日出勤していた。
 以前はやれと言われる立場だったが、今ではやれと言う立場。
 ボスからはいつも下手に出過ぎだと注意されるが、中々上から物を言える上司にはなれない。
 
 今年入った新人のM君に対して、とても厳しい勤務評価が下った。
 他人の仕業のように書いているが評価者の一人であり指導する立場でもあるのが俺である。かわいい部下の一人で贔屓目も出ようというところだが、それを許さない衆目一致の問題点がある。
 彼にはコミュニケーション力が欠落しているのだった。一口に言えば「コミュ障」になるのだろうが、かなり根深く一朝一夕に改善できるとは思えない。
 詳細は割愛するが、社会人として求められる基本的な行動をはじめ他者と少しでも関係が発生するような事象に対して適切な対応が取れない。このことで彼が分担する業務だけでなく様々なところでトラブルの原因となっている。
 今年の新人職員から新たに特別人事評価制度が取り入れられておりその提出時期がやってきた。一定基準以上の評価値が付かなければ最悪の場合その時点で正式採用は見送り、さもなくば試用延長(ただし再延長はなし)だ。
 M君の問題についてどう報告し改善するかボスと何度も話し合ったが、知性に問題点は見受けられないことは確かだが「コミュ障」が彼の能力の全ての足を引っ張っているとの見解は共通認識であった。
 ボスは今の時点で彼を見限っており「この秋のうちに彼に次の就職活動を始めさせてやるのが最大限の思いやりだ」とまで口にした。俺の考えはと言えば彼のコミュ障の原因が何であれトレーニングによって改善する可能性があるのなら対処してみたいというもので、この点の温度差は縮まらなかった。ボスは恐らく今対処などと言うなら4月からの半年のうちに実行に移しその結果を評価すべきだったはずで、今更遅いと不満を感じただろう。
 いずれにしてもその評価は順次上席へ報告し裁可を仰がなければならない。
 ある日ボスと俺は事務局長室にてM君への評価案の説明を行った。そこで局長からあるキーワードが示された。
 「彼は恐らくアスペルガー症候群だろう」
 ボスもそう思っていたらしく、二人はその説を補強するエピソードを複数挙げて本人へ何を求めることができるのか検討し始めた。
 俺はというと、かなり早い時期にはS君と二人で彼をアスペルガーのような人格障害ではないかと疑っていたことがあった。個人的に調べてみた限りでは「積極奇異型」と呼ばれる類型に当てはまるのではないかと感じていたが、しかし個人をそのような障害と決めつけると先入観によって誤った対応をしかねないと危惧していた。
 局長は既に当院の精神科Drに相談しており、そこでアスペルガー症候群に該当するだろうとの答えを受けていた。またもしM君がこれまでに適した療育を受けてきていないのであれば、成人した今の時点で彼を今以上に改善することはかなり困難だとも指摘されたとのこと。
 ただ、あくまでこれは周囲がそう思っている・状況証拠で疑っているという状態ではある。
 
 彼にはできれば社会人としてどの職場でも活躍できる人間になってもらいたいが、その道のりは平坦とは言えなさそうだ…。