試金石。

 Y君とI君に無線アクセスポイントの設定と設置を頼んでいた。これまで俺とY君が主に担当していたシステム管理業務だが、これから徐々にI君へも引き継いでいくことになる。
 I君はコンピュータに対して最近の若者程度以上の知識があるが、それはあくまでホビー用途であって業務用途についてはよく分かっていないように見えるので、まずはネットワークの基礎的な構築から覚えていってもらうことにしようというわけだ。
 院内各所にある既存の無線アクセスポイントでWi-fi接続可能なあるネットワークを、手持ちの余剰機材にある無線ルータを使って医事係内の無線ネットワークアダプタを持たない端末で使用できるようにするという課題だ。業務用の機材では彼の手に余るため今回はBUFFALO製の家庭用無線ルータを使ってもらう。設定の前に当該無線ルータがこの用途に使用できるかどうかの判別もしてもらうつもりだった。
 機材を渡してしばらくの間、特にこちらから手助けすることも進捗を聞くこともしなかった。急ぎの仕事にはしていなかったし、家庭用なので設定用の資料は非常に分かりやすいものがWEB上に出回っているので特に心配することはないように思われた。
 数日が過ぎ、I君は少しずつ作業を進めているように見えた。
 この無線ルータはAP間通信に対応していたのだろうか?。特に何も言っていなかったから大丈夫だったのか…。
 進捗はどうかと尋ねてみると、ローカルIPを設定し無線ネットワークのSSIDやパスキーを指定するところまで出来ていたが、どうしても接続できないので足踏みしているという。Y君も巻き込んでいろいろ試しているようだ。一緒に確認してほしいと言うので設定値など見直したが入力誤りなどは見つからなかった。
 AP間通信に対応してたのか?と聞くと、「ちょっと意味が分からなかったので先に設定作業を進めました」と言う。Y君が状況に気づいて対応可否をWEB検索で調べたところ、当該機種は残念ながら非対応だと分かった。ここで作業は中止である。
 俺があらかじめ調べておくべきだったか。分からなければ分からないと助けを求めれば対応したのだが、I君は自分がインターネットサービスにかなり詳しいと自負しているところがあり、早い段階で白旗を揚げることはできなかったのかもしれない。
 できないことがあってもいいのだ。問題になるのは実現可能性があるかどうかを早期に判別できずいつまで経っても作業が完了しないこと。ヲタク気質の人間が粘りすぎると、まれに作業自体が作業の目的に化ける場合があるので危険である。