改定説明会。

 今日は診療報酬改定の説明会へ参加するため、医事関係者が総出で近隣市町にある美術館のホールへ出かけた。
 移動のための車は病院のワンボックスと、乗り切れない人のためにもう一台ワゴン車を用意し、俺とY君とで運転することにした。
 今回はI君もMさんも参加する。可能ならそれぞれ別の車に乗せたいと思っていたら、その辺はボスがちゃんと配慮していて、集合時刻の30分前にY君・ボス・Mさんをワゴン車で先行させる段取りができていた。やってきたMさんを見ると、ある意味でヲタク向けのロングストレートからゆるくウェーブがかかったセミロングへと髪型がすっかり変わっていた。恐らく隣室に陣取る当院事務方の大ボスであるSさんからの入知恵で、I君除けということだろう。
 ワゴン車を見送り、ワンボックス組が集合するのを待つ。
 派遣のお姉さん達に混じって、派手な私服のI君がやってきた。お前、スーツで来いって言ったのに…。
 実はこちらにも乗り合わせが危険な2人がいる。まぁ、こっちはいい年した大人だからそれほど気にはしないが、隣り合わせで座らせると車内全体に嫌な空気が漂うのが明白だったので、その一方が集合場所に現れると直ちに無理やり助手席に座らせた。
 その一方…管理部門のS君は、彼のボスであるUさんと犬猿の仲である。犬猿の仲というのは正確ではない、上司であるUさんを尊敬できなくなったS君がUさんを無駄飯ぐらいと毛嫌いして口も聞かなくなっている。Uさんはというと、S君に対して業務の命令も指導もできる能力がなく、またそのことを自覚しているのかとにかくS君に関わらないよう距離を置いている。そのためUさんの元で発生した業務はUさんのキャパシティを超えてもS君に助けを求めることもままならず、未消化のままで溜まっていき期限を迎えては周辺の関係者が尻拭いに歩くような日々だ。
 幸い、俺はそのどちらとも関係は良好だから個人的には困らない(もちろん4月以降に迷惑を蒙ることになるのだが)。Uさんは仕事に関することを除けばお喋り好きでフレンドリーな近所のオッサンであり、決して悪い人ではないのだが、今の管理部門ではすっかり浮いた存在になってしまっている。
 往路は最後部に座って小さくなっているUさんをバックミラー越しに眺めながら、隣のS君からのUさんとの仕事の愚痴を聞くという楽しくないドライブだ。
 しかも天候も大荒れだ。
 美術館に着くと、先に着いていたボスがちゃんと会場内のホールである程度席を押さえてくれていた。俺はなるだけMさんやS君から離れた位置に座ろうと、I君とUさんを連れて最前列の空いた席へ向かったが、振り返るとI君がそれとなくMさんに近い席へ滑り込もうとして、またそれとなくボスがそれを阻止するように派遣のお姉さんでMさんの周りを固めようとして、不自然な混雑が起きていた。I君にこっちが空いてるから来るようにと声を掛けると彼は素直に従ってくれたが、すぐそばに近寄られたMさんがI君の方へ目線を送ることはなかった。
 
 説明会は2時間ほどで終わり、相変わらず降り続く雨の中、来た道を取って返した我々。
 Uさんの仕事をどうやって代理で処理していくか悩ましいと愚痴を続けるS君をよそに、俺は車内の誰とも口を聞かず黙り込んでいるI君が気になった。
 しかし今日はそれ以上声を掛けることはできなかった。