焼肉が。

 今日は妻が所用で出かけている。
 髪を切りたいと思い、学生時代からずっと通っている県都の床屋へ予約を入れて午後から向かった。
 N氏から、近く予定している海外出張にあたって必要な機材の準備を手伝ってほしいと連絡が来た。しかし彼は今日は仕事で明日が休み、俺は今日が休みで明日は仕事の予定。後日改めて調整とする。
 床屋に着くとマスターは暇過ぎて居眠りをしており、無理やり起こして仕事をしてもらう。
 雑談の中で先日の鰯の豊漁の話が出て、それに合わせたかのようにマスターの知り合いが新鮮な鰯を店に持ってきた。マスターは娘夫婦が経営する居酒屋に料理を出すほどの腕があり(床屋の中には理容師と別に調理師免許も掲示されている)馴染みの水産会社から時々試供品のような扱いで海産物が届く。
 その中にあった鰯を持って行けと言われるが、あいにくと運搬手段がないので残念ながら遠慮させてもらう。
 
 F氏より、先日からまた何やらヘンなものをプレゼントしたいとメールが届いていた。
 散髪が意外に早く終わったので夕食でも一緒にと思い待ち合わせ。彼はいつものように献血のため血液センターに来ていたそうで、そこからマルツなどいくつかの店を回って買い物に付き合ってもらう。探していたのはLTB-097Aと外部GPSロガーを接続するためのミニB−マイクロUSBケーブルだったが需要がほとんどないためか変換アダプタ経由しか見当たらない。あきらめようとしたところでたった1本だけ残っていたケーブルを発見。さすがマルツ。
 F氏と夕食をどうするか考えるが、お互い決断力もなければ無責任主義であり全く話が決まらない。じゃんけんでF氏が勝てばスシロー、俺が勝てばすたみな太郎と決めてじゃんけん実施、結果は俺の勝利。課のゴミ捨てじゃんけんで鍛えた実力か。
 今夜は珍しく待ち時間なしで入店できたが、例によって客層はよろしくない。狼ヘアの金髪少年やら眉毛が極細のオッサンが多数徘徊する何とも言えない雰囲気の中、淡々と半ば凍ったままの肉を取り分ける我々。
 どうも俺は空腹だった。朝から全く何も食べていなかったためで、そんな勢いで食べ放題の店に来てしまったのだから取り皿の上は普段ではちょっと考えにくい量の肉が積み上がってしまった。F氏はここに来てまで寿司を大量に取ってきていた。お互いにこいつ食えもしないくせに、或いは焼肉店に来てた寿司かよ、と腹の中で思いながら食べ始める。
 鳥もも、牛バラと食べ進むうちに先ほどまでの空腹感はあっという間に失せた。それどころか揮発した動物性油脂を吸入しただけで想像を絶する満腹感である。
 肉を焼くペースを少しずつ上げ、焼けた肉をF氏に押し付けようとさりげなく勧めてみるが、逆にF氏から成形肉を勧められ全く総量が減らない。意図が露呈しているのかもしれなかった。
 負けてなるものか。何事もないかのように装って野菜などあまり量がかさばらない食材を選んでは追加するが、いよいよ口に入らなくなり無理をするのは止めた。F氏の食欲は年齢に比してまだまだ旺盛である。