MAX。
すたみな太郎を出て、あてどなく国道八号線の上でブリットを走らせていた。
どういう話の流れだったか、この近くにある「ビデオMAX」という古いレンタルビデオ店がどうなっているかという話になった。
「ビデオMAX」は我々が県都でどうしようもないダメなヲタ学生をやっていた頃からあった店で、その当時は店頭にセーラーヴィーナスの等身大フィギュアが立って異彩を放っていた。その頃市内にチェーン店を増やしていたGEOなどの大手レンタルビデオ店とは明確に方向性の違いを表明しているのはよかったが、余りに入店しにくい雰囲気であったため初めて見つけてから20年以上経っているにも関わらず一度も行った事がなかったのである。
既に22時を回り開いているかどうかも分からなかった。そもそもGEOやTUTAYAが近所にもできており潰れていてもおかしくない。しかしF氏曰く、土日に稀に営業している様子はあるという。じゃあ行ってみようかと(俺が勝手にそう言っただけだったかもしれないが)ブリットを乗り入れた。
怖いもの観たさが先に立っていたというのが正直なところだったかもしれない。
どう見ても流行っているという感じはしなかった。雑草が生えまくった駐車場に停める際、ちょうど店内から出てきたヲタ臭漂う男性が「何だこいつら」という表情を隠す様子もなくこちらを注視してきて戸惑う。
国道に面した出入り口から入ろうとしたがこちらは締め切りだった。ここにセーラーヴィーナスが立っていた覚えがあるのだが、今は何もない。建物2階にはミニ四駆の専門店が入っているらしい。
もう一つ奥まった位置にある出入り口から入店。
店内は客もおらず静まりかえっていた。昭和のビデオレンタル店の雰囲気がまだ色濃く残るカウンターに男性店員がひとりいるだけだ。
入ってすぐ左手に二階へ続くと思われる階段があったが客が上がってよさそうな様子ではない。
右手を見た瞬間、大興奮してしまう俺。
密集して立ち並ぶ棚にびっしり詰め込まれた、昭和から平成初期にいたる古いOVAや劇場アニメのVHSテープ。
そうVHSテープである。ラベルは色あせケースすらないものもあったが、俺が中学・高校生の頃、ニュータイプ誌の広告で見ただけの作品が大量に並んでいる。マリオネット66、沙羅曼蛇、レンズマン、その他その他…。
もはや言葉もない。意外にも関心がなさそうなF氏を放置して徘徊する俺。眼福である。
また別の列にはアニメ以外の洋画・邦画のテープも並んでいるが、中にはDVD化されていなさそうな古いものも少なくない。またそこから先へ進むと突然VHSからDVD・BDに品揃えが代わった。
よく見ると光学媒体は全てAVなのだった。そう、この店は実質的にAV専門店であるらしい。うちの弟なら喜ぶかもしれないが今まで一度もAVを借りた事がない俺にとって、せめてこの半分もアニメで埋まっていれば…と残念なだけである。
商品を眺めるだけで30分ほどあっという間に経ってしまった。さすがにF氏を待たせるのも申し訳なくなってくる。よく見ていると、我々以外にもパラパラと男性客が入ってきては、特に迷う様子もなくレンタルしては帰っていく。
店内にはレンタル料金などの掲示が見当たらなかった。代わりに棚には中古ビデオ販売もしますと断り書きがあり、実際にテープの一部には薄汚れた値札が貼られたものが混じっていた。貼ってないものはその場で交渉ということか。
とりあえずコナミのシューティングゲームを題材にアニメ化された2作品を買ってみようと思い、レジにいる男性店員に話し掛けた。まず販売は可能だという答えだったが、値段についてはカウンタ内に置かれたWEB端末で検索した結果販売価格が示された。当時の定価とWEB上の中古価格とDVD化されているかどうかを判断して値段を決めているという。
「ウチはアダルトが主力でアニメはあんまり整理できてないから、ちょっと値段設定に時間がかかっててまだ終わってないんですよね」と、ちょっと神経質そうな店員が申し訳なさそうに言った。
提示された値段は、劣化しているかもしれないVHSテープとしてはやや高価だったので、今回は購入を断念。
店の品揃えに変化があるのかどうか、たまに覗きに来た方がいいかもしれない。