目的のない休み。

 今日は一日休みだった。
 このご時世にも関わらずようやく当院の出退勤管理が電子化されたのだが、そのせいでサービス残業や年休の未消化が難しくなってしまったせいだ。今までは時代錯誤の台帳管理だったので、ペンさえあれば自分のサービス残業の実態はいくらでも隠せたし、法定休日がどれだけ未消化でも消化したことにすることは理論的には各人に自由に行えた。ところが電子化のついでに半自動で出退勤時刻の記録が行われるようになってからそのような小細工がしにくくなってしまった。管理職には時刻記録の訂正権限が与えられているのだが、その訂正処理も理由とともに記録されるため後で問題になることを恐れてウチのT係長はサービス残業に協力してくれなくなった。
 就業規則を順守するのは当然のことであるし、使われている俺の立場からこういうことを言うのは何だか違うような気もするのであるが、まぁ、業務が滞るようなことになれば実態に合わせて運用も変えてくれるだろう。
 
 そんな急な休みをどうやって使うかということで、一度はいつもどおり目が覚めたものの、その後何の迷いもなく午前中いっぱいは睡眠に使った。昼過ぎに目が覚めたが、朝方出勤していく妻が「ゴミをステーションに出しておけ」と言っていたようで玄関に既に若干臭いだしているゴミ袋が転がっていた。今さらどうにもできず、部屋の中で一番日当たりが悪い場所へ移しておく。後で見つかるとまずいので、機嫌を取るべくたまっていた洗い物を片付けようとするがあまりに大量であったため途中で挫折。
 このまま寝て過ごそうかと考えたのだが、平日の休みだと普段は混雑しているような場所がガラ空きでいろいろやりやすいと思いなおし、また髪の毛が伸びていたのでひとまず床屋に行くのを兼ねて県都へと向かった。
 
 なじみの床屋に入ったのはもう夕暮れで、マスターは夜の副業に出かけるための準備と掛け持ちで働いており忙しそうだ。マスターは料理の腕が玄人はだしで、マスターの娘が経営する居酒屋で下ごしらえの大半はマスターが賄っているのだ。孫の面倒も見ながらよくやるもんだといつも言うのだが、そのたびにマスターは「好きでやってることだからしょうがない」と答える。そのせいか居酒屋は繁盛していて2号店も出しているのだから、むしろ床屋を店じまいしてそちらを本業にすればよいといつも思う。
 
 床屋を出ると日も暮れて夕食の時間だった。妻から義妹夫婦の家の換気をするよう依頼されていたのでそちらへ向けてブリットを走らせる。
 最近コカコーラの1.5Lボトルを買うとマクドナルドのクーポンが付いている。何枚か集めていたので今夜の夕食はマックにしようかと思いながら、そういう時に限って進路上にマクドナルドはない。気がつけばいつものスシローの駐車場に滑り込んだ。
 まだ混雑するには若干早い時刻だった(そもそも平日だ)ためか、全く待たされることなくカウンターに案内された。
 たまに妻と来る時は、大食いの妻の勢いを見ながら二人で合計2,000円に収まるように自分の食べる皿の枚数を考えているが、今日はそんなことを気にする必要はない。
 そうだ今日は自由に食べていいんだ!俺は自由なんだ!自由万歳!ヒャッハー!
 今日は勢いに任せて12皿も食ってやったぜ!しかも贅沢に赤だしの味噌汁付きだ!信じられねぇ!
 ただ、どれだけ注文して食べてみても所詮はスシローの味だ。会計で支払う際にもちろん後悔したことは言うまでもない。
 しかし、そこでの後悔など今日の最後に訪れる後悔に比べたら子供だましにすぎなかったのだ。