逆走を目撃。

 このあたりは丁度この連休の初日から本格的な降雪が始まったところ。
 午後遅くの雪の中、ブリットを走らせて有料道路に乗る。山間地に入ると積雪はもとより地吹雪でやや視界が悪い。路面は轍と圧雪でかなり悪く、遅い車を先頭にして何台も車が団子に連なって走るような状態だった。
 この県が整備した有料道路は実質的に国の高速道路と変わらないが、まだ一部区間が片側1車線のままだ。この片側1車線区間は、反対車線との境界が一般道と同じ白線のみ、特にガードレールやコンクリ壁などない。だから普段なら(仮に道交法違反であっても)反対車線にはみ出して追い越しをかける車は少なくないが、今日はセンターラインに除雪によってできた雪の小山が続いており、追い越しは難しい。
 先頭の車と、そのすぐ後ろにつけている俺のブリットを追い抜きたくて後ろの車列がウズウズしているのが分かる。ジリジリと車間を詰めてくる車もあるが、反対車線はもちろん当車線の路肩も雪の山で狭まっており、万一の事があれば逃げ場はない。
 ちょうど2車線区間が見えてきたところで、それは起きた。
 先頭の黒いワゴン車は、路肩側の雪の壁に気圧されるような感じで、少し前からセンターラインに右タイヤを乗せるような形で走っていた。2車線区間はそれまでと違い対向車線との境界にはガードレールとコンクリ壁があるため、その手前には衝突警告の黄色いポリドラムが置かれている。頭上には「ここより2車線」の緑の看板が上がっていたが、吹雪でやや見えづらい状況ではあったと思う。
 先頭のワゴン車はそのドラムを対向車線との境界ではなく、当車線から降りる出口とのそれと錯覚したようだ。右にステアを切って反対車線に入り、そのまま走って行ってしまった。
 いくら地方だと言えども腐っても自動車道で逆走は危ない。俺もその先頭車に付いて反対車線に入る直前まで行ったのだが、さすがに何度も通った道で「こんなところに出口など見たことがない」と気づき、慌てながらも車線に戻ることができた。
 そのまま、反対車線を逆走し続けるワゴン車に警笛を鳴らしながら「戻れ」と手で合図し続けるが、吹雪の合間に見えるそのドライバーは中年の女性で、ワゴン車に満員の同乗者も皆子どもや女性のようだった。
 反対車線には普通に走行車両がいて突然の対向車に驚いて必死に躱して行くのが見える。
 ドライバーはステアにしがみつくように運転していてとてもこっちを見る余裕はなさそうだ。だが、どうも自分自身の異常事態に気が付き始めているようで、少しずつ減速し出した。
 こちらも後ろに多数の後続車がいるので停車は難しい。逆走した車には悪いがそのまま行かせてもらおう。次の料金所は近いので、そこで通報しても間に合うだろう。
 ところが、その料金所で料金徴収員に逆走車の発生した位置と状況を知らせたところ、逆走車より驚きの答えが返ってきた。
 徴収員は困った顔でフリーズしながら「いや、それは確認できないので…」とつぶやくだけだったのだ。
 「確認できないので」とはどういう意味だろう?。逆走車が対向車と正面衝突でも起こしたり、元車線へ戻ろうとして積雪した車線上で転回を試み路上を塞いでいるかもしれないのだから、伝えた位置へ向かってパトロールを出せばいいではないか。というか俺の話が信用できなければ確認してくるのが管理者の仕事ではないのか?。
 ふと徴収員の制服を見ると、警備会社の社名入りである。なるほど県から徴収業務「だけ」を委託されているので、それ以上の作業は対応しかねる…という意味だったのかもしれない。あるいは区間内の異常について連絡の権限すらないのかもしれなかった。
 何度か説明を繰り返したが、それ以上何らかの対処をしてくれそうな気配がなかったので諦めてブリットを走らせた。
 県都に着いてから事故の情報を調べたが、今日のところでは積雪によるスリップ事故以外は特に逆走による事故は起きなかったようだ。