そして痛い目に。

 ブリットを再び走らせ、義妹宅に向かう。未明、2時40分過ぎ。
 途中の県道は普段は1.5車線幅の走りやすい道だったが、あいにくと今日は工事中で、途中にS字カーブの迂回路ができていた。ぼた雪が厚く積もり、重くて深い轍がうねっている。
 ちょうどそこを、数台の車列の先頭で走っていた。
 S字前の警告看板には気がついたが、本線からS字に切り替わるあたりのコースラインは雪で見えず、両サイドにあるガードレールで推し量る。その手前までは1.5車線幅だったのが、S字部分は1車線に狭まっていた。しかもS字の深さはもはやシケインと呼ぶべきキツさだった。
 こんな悪路面なのにまだ十分に減速しておらず、さらにブレーキを踏みながら進入する形になる。もうこの時点で危険を察知すべきなのに、後続車の追突を恐れてブレーキを踏む力は中途半端になっていた。
 最初の左へのRはどうにか超えたが、すぐ切り返しの右へのRの手前でVSCが警報音を鳴らし始めた。悲鳴のような甲高い警報音を聞きながら、愚かにも横Gを感じているにも関わらず、ここでブレーキを思い切り踏んでしまった。ABSが動作。
 おしまいだ。なぜシフトダウンしなかったのか。
 ブリットが左に滑る。
 ブリットの左フェンダーが左の仮設ガードレールに擦り付けられ、この抵抗でようやくVSC警報音が停止。後続車は慌ててブリットを避けていく。幸いに追突車はなし。
 散々自分に悪態をつきながら、とりあえずS字を抜けてブリットを停め、損害確認。深夜のためよく見えないが、フェンダーには傷はないように思われる。バンパー左端には水平方向に2本の深い傷。ボディ側面にもそれらしい傷が1箇所。
 やってしまった。愕然とする。
 
 しばらく頭を冷やしてから保険会社に電話する。ウチの母のノルマ稼ぎ用に加入した、高い保険料と引き換えのほぼフルオプションの任意保険。今使わずにいつ使うのだ…と思ったが、等級が上がるのはどうしよう。くだらないことで迷う。修理の見積りを取ってから、保険を使うかどうか考えるか。どちらにしろ、後日連絡で事故の正確な状況を説明できなければ面倒ごとになりそうだし今のうちに電話しておくか。
 担当者からは軽微な損傷でも念のため事故証明書は準備しておけとの指示。というわけで、最寄の警察署にも電話。宿直の若いお姉さんが対応されたが、場所の説明に困った。普段よく走る道だが、県道なのか市道なのかもよく分からない。工事の区間案内の看板を探して読み上げるがそれも通じない。あたりを見回すと工場がいくつか並んでいるので目立ちそうな社名をいくつか告げて、来訪を待つ。
 ぼた雪は降り続け、ガードレールに付いたであろう傷もどんどん見えなくなっていく。ブリットの破損状況を写真に収めていると、通りすがりの車から「あー、こいつやっちゃってるよ」という痛い視線を何度も浴びる。悪かったな。そうだよやっちゃったよ。
 待ち時間の間に妻に電話。言外に「言わんこっちゃない」という非難を感じるがこれは無視。
 必要になりそうな気がして、車検証と自賠責の加入証書を探すが古いものしか出てこない。整理整頓がきちんとできていないといざと言う時に困る。
 20分ほどかけてようやくパトカーが到着。若い巡査さんと、中年の警部補さん。正月もまだ明けていないこんな天気のこんな時刻に、誠に申し訳ない。平身低頭である。
 接触位置と破損状況を説明しようとするが、ブリットはともかくガードレール側の接触位置が見当たらない。ブリット側の傷の位置からすると、もしかしてガードレールの基礎のコンクリートブロックに接触したのかもしれない。警察側も同じ意見となった。
 パトカーの中で簡単に事情聴取されたが、ほんの10分ほどで終わってしまった。ガードレールの被害の弁償の手続きをどうすればいいか相談すると「被害と言ってもコンクリ部分の傷は過去にできたものと区別のしようもない程度だしねぇ。それでも気になるなら、休み明けに管轄の自治体に連絡してみて下さいよ」とのこと。
 ひたすら頭を下げ続け、パトカーは引き上げていった。こんな時間だが、恐らく自治体の道路部局は除雪対応で誰か人が待機してるはずだと思い、検索して出てきた番号にも電話してみた。「あー、警察も見てそのままにして行ったんですよねぇ…じゃぁ、除雪パトロールのついでに見てみますんで、お名前教えてもらってもいいですか?」
 年の初めから人様に迷惑をかけっぱなしである。