遭遇。
先日から、3日間連続で財務システムサーバの一台が起動失敗。シベントログにエラーが残らず、原因は見当が付かない。
終業後、保守業者の調査が終わるまでの間にPC配布の準備をしながら待機。
ふと隣室を除くとZ君が一人で残業中だった。
「まだ終わらないんですか?」
『俺が終わらないというより、業者さんが終わらない。残業大変だねぇ』
「残業ちゅうか、あんまり家に帰りたくないんすよ」
『はぁ?』
聞けば、今朝家を出る前に奥さんとケンカ、泣かせて来たらしい。
「明日は仕事早いし、帰らないでおこうかなと」
『いやダメだろ。むしろ今日こそ帰らないと』
「まぁまぁ、お腹空いたし晩飯食べてきましょうよ」
業者が引き揚げた21時頃にタイミングよく仕事を切り上げたZ君。というよりも俺が帰るのを待っていたというのが正しいか。
突き放して帰るべきか迷ったが、2人ともツケ払いに行く店があったので食事だけのつもりで夜の街へ。
とりあえずいつもの店に入ると、丁度N係長と入れ替わりだったらしい。入り口すぐのカウンターに腰掛ける。
もう既にいつもより遅い時刻なのでさっさと食べて帰るつもりだったが、気が付けば二人とも中ジョッキを傾けていた。
ここしばらくZ君の様子を見ていると、まっすぐ家に帰るのは週にせいぜい1〜2日程度。小さい子供がいるのにそれでは奥さんも気分が悪かろう。少し話を聞いているとやはり家で会話することも減っているらしく、今朝の夫婦ゲンカも昨夜の帰宅が遅かったZ君を奥さんが咎めたところから始まっていた。
今夜は彼と同行したのは失敗だった。出てきた料理を食べ終わったら彼を運転代行に預けて帰ろう。
そう思っているとZ君の携帯が鳴った。ほら家から呼び出しだぞ、と店の外へ向かうZ君に言ったが、電話を終えて戻ったZ君の顔は浮かなかった。
『何、奥さんから帰って来いって言われたんだろ?ツケだけ払って、23時には帰るぞ』
「いや、地元の先輩からだったんすけど、今から飲みに出るから迎えに来いって。俺もう飲んじゃってるしムリって返事したんだけど」
『ふーん…』
しばらく二人で話しながらZ君のグラスが進まないよう時間稼ぎをしていると、入り口の引き戸が乱暴に開いた。
入ってきた客の顔には見覚えがあった。以前勤務していた病院に通院していた人物だ。Z君はというと、その客の顔を見て飛び上がらんばかりに驚いている。
「先輩!何でここにいるの分かったんですか」
『お前の考えとることなんざ全部お見通しなんじゃ!しかしお前ら二人が知り合いとは知らんかったな!久しぶりやなオイ!』
彼は我々とほど近いカウンターに座って焼酎を頼んだ。
この人物、M氏は初対面の頃からカタギじゃないことは気付いていたが、Z君と付き合いがあることは知らなかった。Z君を見ると明らかに浮き足立っている。
M氏はギロリとZ君を睨む。「おいワレ!俺は朝まで飲んどるから、明日朝4時に俺を迎えに来い」
「明日は地元の祭礼準備があるので、ちょっといろいろと…」
「おうよ!俺もじゃ!遅れるわけにはいかんやろがクソアホ」
「あ、あはは…」
「おし!お前らも呑め!親父!コイツラにも水割り作ってやれ!」と、M氏は鋭い眼光で我々に焼酎を勧めてきた。とても断れる雰囲気ではない。覚悟を決めてごちそうになる。
M氏は口も悪く風体も明らかにそっちの道の人物だが、少なくとも自分が知り合った頃からは分別を弁えた社会人だった。同じ町の出身者に聞くと話がなかったので、昔は相当ひどかったようだが。
そこから先はM氏の武勇伝が続く。地元の祭礼の協賛金を一日で100万円集めただの、祝い酒を5升空けたとかいう話まではよかったが、公共料金を踏み倒しただの、税金の督促を追い返しただのとロクでもない話が次々と飛び出してきた。
初めの内は我慢して傾聴していたが作り笑いにも限界がある。先に店を出ようとZ君に合図を送るが彼は蛇に睨まれたカエルの状態。彼を置いていくわけにはいかないしどうしたものか。
適当にM氏の相手をしながら焼酎をすすっていると、ふとM氏は立ち上がり「おいZ!ワレ約束やからな!4時やぞ4時!」と言い残して店を立ち去った。
揃ってため息をつく我々。もし店の主人が気を利かせて焼酎の水割りを薄めにしてくれなかったらもっとしんどいことになっていただろう。
彼が戻ってこない内にと、我々も早々に店を後にした。
しかし酔いが回ったZ君が勝手に次の店に予約を入れてしまい、そこで職場の先輩グループとも遭遇。帰宅できたのは3時だった。