仮想現実空間。

 職場の親睦旅行で上京した。
 行き先は都合上東京に限定されていて、参加者も東京周辺で特に行きたい場所が思い付かない。アンケートも実施されたが幹事の決断を後押しするような結果が出なかった。
 ウチの係のZ君が幹事長だったため特に行き先については色々と相談を受けていたが、あまり参考になるような意見を出してあげられなかった。
 しかし彼は極めて面白い行き先を見出した。
 「VRゾーン新宿」である…。
 ロボットアニメに極めて重大な関心を寄せる我が係の俺とD君は、ここへ行くならば必ず体験すべきブースを2つ選定した。
 「装甲騎兵ボトムズ バトリング野郎」と「機動戦士ガンダムUC 激突ダイバ上空」である。
 
 実際に現地で遊んでみた結果。

 「バトリング野郎」は開発費が足りなかったのか二次元機動に限定されたSEGAサターン版機動戦士ガンダム戦慄のブルーの劣化版だった。
 しかも1on1対戦限定で、2人で行けばちょうどいいが今回我々はH君も伴い3人で押しかけたため、1名はスタッフに相手をしてもらうことになる。
 若い者2人には楽しく遊んでほしかったので俺がスタッフとプレイすることにしたのだが、このスタッフは恐らく同じような客を相手にアホほど経験を積んでいたらしい。古くはガングリフォンシリーズ、アーマードコアシリーズ等疑似3Dロボット物でそこそこキャリアがある俺が文字通りのフルボッコであった。
 言い訳を許してもらえるなら、バトリング野郎ではVRゴーグルでエイミングを行うのはいいが視線指示ではなく頭部の方向で行うことになるので非常に難しい。人間は状況把握にわざわざ顔を左右に振らず視線を動かすだけで済ませているのだ。つまり現実的なインタフェースとしては不足なのだ。
 しかも酔う。これは後で地味に効いてくることになる。
 
 「激突ダイバ上空」は単にMSの手を模したソファに座り(VRゴーグル内ではプレイヤーに向けて伸ばされたRX-0の右手なのだが)、ひたすら直線的にビームサーベルで斬撃を繰り返してくるシナンジュを見物するという、何とも言えない内容だった。同行していたD君は「シナンジュがナメプ過ぎて涙が出た」と呟いた。


 これ、改装前のガンダムフロント東京にあったRX-78の上空を眺めるヤツより酷い…。
 
 今回の旅行ではそれぞれ止むを得ない理由により少し不参加者が出て、最年長の課長のフォロー役となるべき年齢の近い参加者が不在となった。VRゾーン新宿の中で課長が手持ち無沙汰とならないよう、参加者中の男性で最も年の近い俺がD君と共に課長に付いて回ることにした。
 VRゾーン新宿では20近いVRアトラクションが稼働しているが、課長の年代で楽しめるものも多かった。中でも課長が喜んだのが「マリオカートVR」である。
 既存のドライビングゲームのインタフェースをVR化しただけで「確実に面白い」と素人でも分かるため最も人気のアトラクションだった。


 課長以下若手の希望者が長い行列に並んだ末にレースに参加。その模様はZ君と手分けして6Dで動画撮影したが全員大興奮であった。
 
 課長の待ち時間の間、D君と俺はやはりロボットアクションらしい「アーガイル・シフト」というアトラクションに向かった。待ち時間が最も短く(つまり最も不人気)きっと何か問題があるのだろう。
 行ってみて待ち時間が短い理由が分かった。美少女キャラをVRで体感できるのがウリで、ロボットアクションは言い訳程度の添え物だったのだ。
 あれだ、楽園追放のアンジェラ・バルザックが自分と同じコクピット内にいる状況「だけ」を再現したら大量にヲタクが釣れるだろうと考えた奴がいるわけだ。
 D君の方は「ファティマがいますよ!係長!」と叫んだ。

 ああ、そっちもあるな。それならできればメガエラで…。