忘年会にて。

 今日は職場の忘年会で、幹事であるZ君が珍しく一口もアルコールを飲まずに仕事に徹していた。
 持病の治療のため一日仕事を休む予定だった俺は当初欠席を申し出ていたが、飲みさえしなければ別に構わないだろうとのボスの意見で参加することとなった。
 病院の混雑と、降雪のため道が混んでおり開宴に遅刻。
 
 やがて始まった余興のビンゴ大会でそれは起きた。
 順調に番号に当選しビンゴコールしたD君が、幹事に促されステージ上に陳列された賞品を受け取るために進み出る。
 全くシラフの俺は見逃さなかった。
 …D君のスラックスの内腿が両足とも大きく裂けてパンツが丸見えになっていることを。
 厚手の冬物の生地だったから擦り切れるまでには相当履き潰したものと思われる。
 先日、他係の女の子達からそっと耳打ちされた「Dさん絶対スーツ着た切りですよ」との言葉が蘇る。
 思わず叫んだ。
 「D君…ズボン破れてるよ」
 デリカシーも何もあったものではない。
 他の気遣いできる出席者はみんな気付かないフリをしていたらしい。
 それもどうなんですかね。ねぇ。
 
 宴は一旦お開きとなり、2次会まで同行してくれていた課長が酒癖の悪い地元の議員に絡まれて脱落、女性陣も間もなく別行動を始め、3次会は我が係と別係のH君で顔なじみのスナックに転がり込んだ。
 アルコールを飲まない俺を見てゆっくり真面目な話ができると期待していたらしいZ君だったが、泥酔したD君とH君が暴れだしてそれどころではなかった。
 「やっと…やっと俺は俺の歌を歌えるんすよ!さっきまでのメンツでは俺は俺はいられないんすよ!」
 ああ…D君、そんなに水曜日のカンパネラを歌いたかったのかね?
 だがそれでは本当にいつもの君ではないのか?
 いや、俺は油断していた。
 本当に油断していたのだ。
 
 2時間ばかりマキシマムザホルモンイカれた歌を叫び続けたD君。
 まぁいいんだ今が楽しいなら。うん。