飛燕とH2。


 川崎重工創立120周年記念展でレストアされた三式戦闘機「飛燕」II改型の実機展示があると聞いた。
 国内で大戦当時の国産機の実物を観られる場所はそれほど多くない。車で思い立って簡単に行ける所ときたらなおさらで、しかも飛燕は当時各型合わせて三千機近く生産されたのに現在まともな形状を保っている現存機はこのII改型の一機だけだ。
 土日とも休みなのはこの週末だけだったので、少し早起きして片道7時間ほどかけて展示会場である神戸市の神戸ポートターミナルへ向かった。
 
 現地は生憎の曇天であった。
 ポートターミナルホール周辺で駐車場を探すのに一苦労しそうだと思っていたが、ターミナルの駐車場は余裕がある状態で助かった。
 ブリットを停めたすぐ脇のジムニーが中々の威圧感を放っている…。

 
 ホール内には川崎重工が製造してきた様々なハードウェアのパネル展示に始まり、今回の復元作業で製作された過給機や復元作業のビデオ上映が行われていた。

 パネル展示のイントロを過ぎて振り返ると、ホール中央に飛燕の機体が鎮座している。
 いわゆる「ゼロ戦」のような星形空冷エンジン搭載機とは異なるシャープなシルエット。以前ドイツ博物館で観たBf109e3とは似て異なる、スマートさと垢抜けなさを同居させたいかにも日本機らしいスタイルだ。
 塗装は国籍表示以外は無塗装でジュラルミンの無地。

 細部を見ると完全復元というわけではないようで、動翼と操縦席を結ぶ操縦索が見当たらない。また特徴的な胴体下部のラジエータと胴体の接合部、主翼の取付部などは仕上げがやや雑で数mmほどの隙間が空いた状態だった。主翼・胴体その他の外板は鋲止めによるものだけとは思えない歪みも見て取れる。オリジナルの部材と復元部材の区別ができない部分もあったが、総じて流体を念頭に置いた仕上げにはなっていない。もし将来的に飛行可能な状態にまでレストアするならさらに大規模な作業が必要になるだろう。
 同型機の実物が他にないので比較できないが、今までに見たことのある遊就館大和ミュージアム零式艦上戦闘機などと比べると当時の航空機の製造品質がこの程度だったとは思えないが、この機体が試作機だからか、今回の復元作業の完成目標がここまでなのかは分からない。
 
 機体の周辺には今回の復元作業で新造された内蔵ラジエータ本体や過給器の他、操縦席の計器パネルとエンジンの実物が置かれていた。

 特にエンジン…恐らくこの機体の性能・製造両面で足を引っ張った諸悪の根源であるハ140は、外観からして既に当時の日本の技術では手に余ってやむなしという禍々しさを漂わせている。
 もう少し機銃同調部を念入りに見ればよかった…。
 来館者をかき分けながら館内を歩く。同時展示されている高性能2輪のH2目当てに来ているライダーも多い。女性客も多かったが、同行の男性に機体性能など解説して聞かせている若い女性も何人かいる。やっぱり技術職なのだろうか?。
 
 3時間程も滞在しただろうか。何時間眺めていても飽きる気はしなかったが、次の目的地に移動する時間も必要だった。
 次は六甲山頂である。何年も前に職場の旅行で早朝の六甲山頂を訪れた際の眺望が素晴らしく、いずれ夜景も見てみたいとずっと思っていたのだ。
 その際に立ったと思われる展望施設をiPadで探し、ブリットのナビで経路を設定。
 途中、妻に土産としてケーキを買ってこいと言われていたのを思い出して神戸駅に立ち寄った。…立ち寄ったと簡単に書いたが、情けないことに誤って阪神高速に乗ってしまい、更に最寄りの出口を通り過ぎて酷い遠回りをした。更に戻る際にも入り口を通り過ぎて下道を数km無駄に走っている。
 駅構内には思った通り洋菓子店が幾つかあったので、とりあえず適当な店でロールケーキを買った。買って精算してから店員のお姉さんに「こちら、お持ち帰りは2時間以内でお願いします」と注意された。いやぁ、帰宅は2時間どころか12時間後くらいになりそうですが、何か。
 まぁ俺が食べるわけじゃないし構わないが。
 
 気が付けば陽も落ちていた。途中給油しに立ち寄ったガソリンスタンドで、応対してくれた店員さんが石川ナンバーを見て来意を訊ねてきた。川崎重工の展示会で…と答えると「ああ、鉄道のイベントですよね。工場で製造中の電車見て、それから○○っていう鉄橋を撮影して行くみたいな」と言われる。残念ながらそのイベントのことは分からないが、気を利かせて教えてくれた事に感謝。
 再びブリットを走らせ、西宮市に入った。