何だか荒んでないか?。

 時刻も遅く18時頃、買い物を終えてN氏のアパートへ寄ってみた。彼はカレンダーどおりの連休だが、以前つるんでいた悪友が九州に転勤してしまい暇で仕方ないらしい。ということはきっと婚活の方もあまり進展がないのだろう。
 とりあえず晩飯でも行くか、とN氏のDQN仕様レパードで出かけるが、困ったことにN氏行きつけの店はどこも満席で待ち行列が長い。連休中日だし、県都も一応は観光地ということでいろいろ混雑しているわけだった。
 俺は特に空腹ではなかったからもう2〜3時間待ってからオーダーストップ前に滑り込めばいいだろうと言うと、それなら時間つぶしに付き合えとN氏はレパードを走らせる。
 この男、昔に比べてだんだん運転が荒くなってきた。車間は詰めるわ車線変更は急だわ加速はきついわ…婚活で知り合った女性を乗せている時もこんな感じの運転なのだろうか。悪印象少なからず、のように思われる。
 そんな運転でしばらく走って着いたのが、何と競艇の場外投票所であった。
 本県には1箇所しかないいわゆるボートピアである。
 この間のちょっとした連休にN氏が連れて行ってやると言ってはいたが、その際はちょうどレースがなかったとのことでキャンセルしていた。それにしてもN氏はいつの間にこんなギャンブルを覚えたのだろうか。
 大昔、F氏とだったか誰とだったか社会勉強だとばかりに一度だけ競艇場に行ったことはあったが、明らかに間違った道を歩んでいる人々がたむろする場末感に衝撃を受けて近寄らなくなっていた。
 聞けばN氏はシーズン中なら週に一度は通っているという。レパードを降り平然と施設へ向かうN氏だが、駐車場に停めてある他の車はN氏のレパードなど足元にも及ばないDQN車か、納車時からカーケアなど微塵も考慮されたことがないボロ車か、さもなくば社名を隠すこともない、土方の缶詰ことハイエースやキャラバンばかりだ。
 施設は清掃も行き届いて綺麗に見えた。ちょっとしたパチンコ屋と雰囲気は同じだが、受付カウンターにいた制服姿の女の子はみんな美人ばかりなのが意外だった。パチンコ・パチスロ屋にいる従業員は言葉は悪いが客層に合致した人種ばかりだが、ここは違った。曲がりなりにも公営施設だから採用基準が違うのだろうか。
 中は空港の受付ロビーと似た広い一室で、壁面に大型モニタが十面ほど設置され各地の競艇場で開催中のレース中継やオッズ情報が流れている。モニタ群を囲むように設置された待合イスには、その後姿を見るだけでどういう客層か簡単に想像できるような人々がぎっしりと詰まっていた。
 たまに空いている席もあるが、よく見ると場内で配布されているレースの予定表や競馬新聞のようなものが置かれていて、どうやらパチンコ屋でよく見るような席取りということらしい。
 反対側には駅の券売機に類似した端末が並んでいる。ここで現金の収受を行うようだ。端末を使おうとして何か分からないことでもあったのか、客の一人が巡回している女の子を呼び止めようと「オウァ!ゥラアラァ!」と、人語ではない何らかの音声を発している。
 室内の片隅にはセルフサービスだが食堂もあった。大したメニューではないが、朝から晩までここで時間を過ごすような人がかなり多いということか。
 我々が着いたときは、ちょうど第10レースが始まる前だった。
 室内に点在するカウンターにはマークシート式の投票申込書が置かれていて、客がそれを取り囲むようにしてああでもないこうでもないと申込書を記入している。申込書には予想した着順やその組み合わせに応じた欄があった。なるほど、申込書を書くのは自由で、記入した申込書を例の端末に読ませて初めて掛け金を払うのか。
 N氏がレースの予定表の読み方や申込書の書き方を教えてくれた。しかし書き方はいいが、一体何を根拠に着順を予想するのか?。
 N氏いわく、経験上コースの内側に位置する1号艇から3号艇までが上位に食い込む事が多いようだ。これは当然航走距離が内側ほど短くなることもあるが、運営上のルールで経験が浅い選手ほど他艇との衝突などの事故防止のため外側に配置されることも関係しているという。また、スタートダッシュと最初のコーナーを過ぎるまでの間にほぼ順位は決定してしまい、その後はカーレースや競馬のような劇的な逆転はないという。これも理由があって、艇自体やエンジン等が全て同一基準で定められたものを貸与されて使用するため、レース前の微細な調整以外に艇の性能を左右する要素がないためだそうだ。
 そうこうしているうちにN氏は第10レース用の投票権を書き上げて投票を済ませてしまった。3着までの順位を予想する3連単式で、さらに3パターンの順位組み合わせを予想している。1パターンあたり200円を掛け金にしてあった。お前もやらんのか?という視線を感じ、とりあえず同じように予想を立てて投票してみた。ちなみに3連単式より予想が的中する可能性が高いと思われる、上位3着までに入る艇を順序にこだわらず予想する3連複式を使う。1パターンのみで500円を賭けることにする。しかし、記入するスタンドや入金端末には非常に雰囲気がよろしくない人々が集まってきて途切れる様子がない。こんな場所で財布を取り出すことすらためらわれる。
 今夜の実際のレースは桐生競艇場のものだそうだ。始まってみると、確かにN氏が言うとおり艇が最初のコーナーを過ぎてからは順位が入れ替わることはなかった。どうやらこれで順位が決まったと思われたタイミングで、場内には負けを悟った客達からと思われる「ホァアアウアアア!シュリャアアラアア!」という叫び声がドルビーサラウンド的な感じで響き渡る。
 第10レースではN氏の予想が1パターン的中し、2,000円ほどの払い戻しを受けた。掛け金を差し引いて1,400円ほどの利益か。えっ、そんな簡単に的中するものなのか?と驚いたが、どうも彼は相当足しげく通って場数は踏んでいるらしい。こんなもんじゃないの、というような表情で次の第11レースの予想を書き始める。
 まぁ、的中する理屈は分からないし知りたくもないが、とりあえず投票の仕方は分かった。多分もう二度と来ることはないのだろうと考えて、もう一度第11レースで投票してみることにする。コース内側が有利というのでとりあえず1〜3号艇までと、1号艇以外は適当に選んだ3連複式で各パターン500円ずつの計1,000円の掛け金を投入。N氏は先ほどと同じように200円ずつでまた3連単式にしたらしい。
 結果はというと今回は2人とも外れて掛け金喪失。所詮は賭博だからそんなものでしょう。
 
 2レース分の時間でちょうどいい時間つぶしになった。

 玄関から出る際に振り返ると、やはりパチンコ・パチスロ屋などと同じ、終わってる感が漂う人種が群れる異質な空間だった。
 パチンコ・パチスロに金を投じて韓国・朝鮮に資金援助する基地外はもうどうしようもないが、競艇ならまだ国内に資金循環するので少しはマシだろうか。
 それにしても、N氏は婚活の際にはもちろん競艇場通いの事実は隠しているのか、あるいは今は婚活は一次休止のつもりなのか。それとも最近はパチンコ・パチスロ競艇くらいはやって普通、ああいうところにいる連中が普通基準という時代なのか…。