再びの黒壁。

 昨日遅くにN氏から翌日7時集合とのメールが届いたが、起床したのは8時過ぎだった。
 N氏宅には9時前に入り本日の目的地を聞くと、過日行こうと発起しながら行けずじまいだった滋賀県海洋堂黒壁ミュージアムとのこと。
 今回はN氏の愛車最終型レパードにて向かうことに。
 納車された時はどんなに荒れた路面でも全く振動を感じさせない静粛性が羨ましいくらいだったのに、今ではエアロからホイールまでどっからどう見てもDQN仕様になってしまったN氏のレパード。
 もちろん車外品のダウンサスに交換された上タイヤはインチアップ済みのため、僅かな路面のギャップも車内に直接ガタガタ伝わってくる。それどころかN氏の微妙なステア操作が全て車体の横ぶれとして伝わってくるようになってしまった。
 走行中にナビ操作を任されたが、車内が揺れ過ぎて操作画面上に指先を保持できない。ダッシュボードにしがみつくように目的地文字列を入力しようとするが果たせず。昨夜はN氏とひたすらゲーセン三昧であったため睡眠時間がほとんどなく酷く眠くなってきたので横にならせてもらったが…止む事無く続く車内の振動がシートを通して頭蓋骨に響くようで眠れたものではない。
 聞けばこれでも調整範囲の中ではソフト側だというのだが、高校卒業したてのDQNが初めて買った中古の軽4に施す全く無価値な足回りカスタマイズ…とまでは言わないが、もう少し普通に乗っていられるように再調整したらどうか…。彼女とドライブする時にどうするつもりなのだ。
 
 N氏宅から休憩も含め2時間半ほど走り続け、正午過ぎに目的地にたどり着く。3連休とあって先にF氏と訪れた時を上回る賑わい。
 今回は黒壁スクエアのアーケードに迷う事無く海洋堂ミュージアムへ。館内はカップルや親子連れのみならず中高年の団体客も押しかけ大変な混雑である。
 ミュージアム入り口付近の動物・恐竜のフィギュア展示エリアは前回とほぼ同一の展示だったが、そこを過ぎたアニメフィギュアエリアはエヴァ新作劇場版公開にあわせた特別展示で一変していた。

 このエリアだけ撮影禁止となっていたが、劇中の各シーンを再現したジオラマが多数展示されている。劇場版はまだ観てないのでいまいちシーンに感情移入はできないが、シャフト降下中の4号機…カラーリングからしてそうではないかと思うのだが…は素晴らしい出来栄えだった。

 N氏はガノタであるがアニヲタではない。エヴァも旧TVシリーズから通して観た事はないはずで、あまり関心はなさそうである。撮影できないならと他の展示より念を入れて眺めている俺を見て「ここに来て俺よりお前の方が楽しそうだな」と、にやりとしながら一言。
 例によってその奥は成人向け(正確に言えば男性向け)フィギュアエリアでこちらはほとんど前回と変化なし。入り口正面に飾られたセーラームーンを目にしてN氏は引き気味である。そんなものでうろたえていてはこのエリアを最後まで見学することができようか。
 N氏は足早にエリアを通り過ぎていく。非ヲタのN氏にとってはここは異世界であろう…と思ったがよく考えてみればN氏の最近の愛読書はヲタリーマンシリーズだった。ヲタと言っても萌ヲタではないということか。
 ふと背後を見るとカップルや親子連れが続いて入ってきた。カップルはいいが親子連れはどうなんだ。子供に見せていいものはほとんどないだろう。間違って入ってきたなら早く気が付いてくれお父さん、とハラハラしていると、何と子供達を引っ張り込んだのはお父さんだった。
 「ほらほら!セーラームーンとかバスターマシン7号とか!懐かしいわ〜」いやいや元ヲタのお父さんが懐かしいのは分かったから、乳房丸出しパンツ丸見えのフィギュア並んでるような場所に子供連れてくるな。頼むから。
 場違いな客がなだれ込んでくるので落ち着いて見学していられない。前回訪問時にも増して駆け足で通り抜けることに。実のところ写真撮ろうと思ったけど高感度弱いKissDXでは外部フラッシュないとマトモに撮れないことがはっきり分かったので諦めた。持ってきていてもガラスケースに反射してしまうだろうし。高感度に強いコンデジとかいいのかもね。
 見学後は1階のショップでお土産選び。先日飲み会をドタキャンしてしまったNU氏にお詫びを兼ねてエヴァデザインのクッキー詰め合わせ、これは実家の妹向けにも購入。職場にも…と迷ったがこんなものを持っていって何を言われるか分かったものではないのでやめておく。
 N氏はどうもガンダム三国志関連の作品展示がもっとあるものと期待して来ていたようで、代わりにショップのサンプルにある三国志フィギュアを食い入るようにして眺めていた。買えばいいのにと勧めてみたが、値段を見て撤回する。
 
 ミュージアムを出て、黒壁スクエアを散策。今日は幸いに雲ひとつない晴天で、恐ろしく寒いが街歩きには最高だった。
 N氏は職場向けに「普通のお土産」がほしいというのでお土産屋を何件かまわる。何が名物なのか見ていると、どの店にも鮒寿司が置いてあるのに気が付く。しかもものすごく高い。
 淡水魚のなれ寿司か…匂いがすごいことになっていそうだが、実家・義実家の土産にいいかもしれないぜ、お前が買えば俺も買うかどうか考える、とN氏が散々勧めてくる。ふと見つけた鮮魚店にあった最も小さいパックを買ってみた。わずか3、4切れが入って600円。高い。
 ところがN氏は後でもっと安いものがあるかもしれないと見送りである。お前も買うと言ったじゃないか、と詰問すると「買うかどうか考える」と言っただけだとさらりと言ってのけた。こいつめ。
 オッサン二人で適当に買い物をして、撤退開始。
 
 帰り道、賤ヶ岳SAで休憩しながらN氏の追加の土産の買い物に付き合っていると、混雑の中「おい、あれ」とN氏が売店のレジをあごで示した。中年女性客が精算している最中でじろじろと眺めるのも失礼かと思っていたが何かがおかしい。
 よく見ると、一人でとんでもない数のパンを買い込んでいるのだった。全部同じ種類のもののようで、また店員も慣れた手つきで数えては箱詰めしている。
 何だあれは。ヘンな客もいたものだと二人で首を傾げていると、その後ろにいた次の客もまた一人で一抱えも同じパンを買おうとしているではないか。もっと変な客もいた。携帯片手に「どうする?パン20個ぐらい買ってこか?」と尋ねているのだ。
 振り返ると、陳列棚の一箇所にそのパンが山積みになっているのが見えた。黄色いラベルの、コンビニやスーパーで山売りされているのと似たコッペパンのようだ。ところがその棚に近づこうと進む間にもどんどんパンの山が小さくなっていき、俺がやっとひとつ手に取った時にはもう棚は空になっていた。
 ラベルを見ると「サラダパン」とある。1個130円。どう見ても高級品だとか、レア品という風体ではない。どうやらドレッシングを和えたサラダを挟んであるようだ。すぐ隣の棚には同じ製造元のものと思しき「サンドイッチ」が並んでいる。こちらもコンビニのサンドイッチに比べても具が少なく何が売りなのかよく分からないが、見る間に売れていく。
 とりあえず買ってみるか。というわけで俺は手に取ったサラダパン1個、N氏はサンドイッチ1個購入。
 コーヒーも買ってレパードに乗り込み、一口かじって衝撃を受けた。
 挟んであるのはキャベツサラダだと思っていたら、何と千切りにされたたくあんだった。隣のN氏も「お前何パリパリ齧ってんの?」と思わず聞いてくるほどの歯ざわりである。パンとたくあんかよ…とげんなりするかと思いきや、不思議と食べやすいさっぱり具合で悪くない。よくこんな組み合わせ考え付くよな…。
 N氏のサンドイッチの方はどうもハムを挟んであるだけの普通のサンドイッチだったそうだ。
 
 N氏宅に帰りついたのは日も暮れた19時頃であった。レパードに給油した後、N氏が腕時計のバンド長の調整をしたいというのでショッピングモール内のブランド時計店に立ち寄る。店員の作業が終わったらブリットまで送ってもらおうと思っていたが、続けて100満ボルトに向かうことに。
 さて、まだ遅くなるようなら夕食の心配もしなければならないが明日は普通に仕事でもあるし、そろそろお暇しようかと思っているところへ妻から帰宅を催促する連絡が届いた。
 それを理由に解散となり、ブリットにお土産を積んで義妹宅へ帰宅。遅かった理由を問われてN氏の所用に付き合っていたことを話すといきなり怒られた。曰く、N氏は往復の高速道路代やガソリン代を負担してほしくてあえて帰路に給油に行ったのだから、その後店を回っている間に相当額を渡しておくべきだったという。
 なるほど、それは気が付かなかった。現金を…というのもどうかと思われるが、次に会った時には食事をおごることにしよう。