治療日。

 持病で通院のため一日休みをもらった。
 昨日、部下の指導と今後の業務の見直しに関してボスからこってりと絞られたところで、気分的には休みを取り消して仕事を片付けたいのと一日仕事を考えなくてよい気楽さと半々である。
 同期と先輩を部下に持つとこんなに気苦労があるものか。しかも先輩は気を遣うだけでよい人だが、同期の方は扱いにくい事で有名な人物だ。しかし、過去に俺自身が過ごしたところでそういう事例がなかったわけではなくその際の係長はそれぞれうまくやっていたし、今回ボスは方針ややり方についてアドバイスをくれているのだから、自分の実行力に大きな原因があるのは確かだろう。
 
 通院先は遠い。一連の治療の開始にあたって主治医から受けた説明では、確かそろそろ一区切りの時期のはずだ。
 冬場の通院の大変さも気がかりだし、俺自身の立場上定期的にまる一日休んでいるわけにもいかず、勤務先の病院に転医させてもらうべく相談するつもりだった。
 ルーチンの点滴治療の後の診察で主治医の話を聞いていると、残念ながらまだ終われる様子ではない。
 
 点滴は毎回二時間、抗癌剤治療を受ける患者さん達と同じ専用の療法室で受ける。
 隣のベッドで与薬を受ける人の表情を見れば、俺の症状など大したものではない。とは言え、今日はいつもの様にスマートフォンをいじって時間を潰すことはなく、時折のバイタルチェックで起こされる以外は眠っていた。
 
 主治医の診察を終えて自動精算機前で会計を待っていたが、デジタルサイネージに俺の受診番号が表示されたのに自動精算機は受付エラーを出した。実はと言うと難病特定疾患の受給者証がいつも交付待ちで、以前の会計が保留扱いになっていたり今回の会計も保留になるかどうかという日ばかりですんなり会計ができる日は少ない。自動精算機で精算できたのは、認定前にやむなく受診した一回だけだった。それも精算機上に表示された金額が10万円超えで、後ろで待っていた他の患者さんがどよめいた覚えがある。
 難病特定疾患の認定の有効期間は1年間だけで、毎年9月には更新手続きが必要だ。難病と言っても症状は治療によって軽快している時期もあるから、更新の際に必ずしも再認定が受けられるとは限らない。国の福祉予算には限りがあるのだからそれ自体は仕方ないのだが、問題は認定結果の後の受給者証の交付までに2〜3ヶ月ほど掛かってしまう点だ。医療機関は受診した患者が認定を受けているか否かを受給者証でしか確認できない。確認できなければないものとして扱われるのだから、どうしても高額な医療費を請求されがちな患者からすれば早めに受給者証が欲しいところである。
 俺の場合はこの難病特定疾患制度が始まって以降に新規申請をしたクチだが、初回認定までに数ヶ月、そして認定後の最初の受給者証が届いた翌月にはすぐ更新時期が来てしまった。なので手持ちの受給者証が額面通り証明書として有効だったのはたった1ヶ月だけだったのだ。
 医療機関によって対応は違うと思うが、俺の通院先では最初の数回の受診では後日の受給者証提示に応じて払い戻しをする前提で、一般の健康保険扱いでの診療費計算が行われた。なので受給者証が届くまでは毎回9万円、10万円と高額な支払いをしていたのだ。
 もちろん、保険者へ高額療養費制度の適用を申請すれば収入に応じた自己負担限度額の適用を受けて払い戻しの対象となるが、いずれにしろ一度は請求された額を支払いしなければならない。
 有人窓口にいつもどおり事情を話して精算をしてもらった。今回は、認定後にも関わらず受給者証が届いていなかったために一旦単に健康保険で3割負担していた過去の診療分の払い戻しがあるので受け取っていって欲しいとのことだった。
 最近は受診時の領収書や申請手続き用の書面のコピーなどを入れたファイルを持ち歩いているので、払い戻しの対象となる領収書もすぐ提示できた。自分の病院でも、賢い患者さんはそうやって自分自身の医療の管理をしているものだ。ただ、それは重い持病を持った人ばかりだったから、俺自身がこういう風にしている様は結局自分が健康ではないという証なのだと実感する。
 件の診療費は8万円ほどの支払いをしているものだった。そこから一旦、難病特定疾患制度で本人負担する上限の2万円を差し引いた残りが現金で返金された。さらに本日診療分の2万円を支払い、受給者証の記載欄へ支払い済みである旨の証明記載を受けて会計終了。
 この後立ち寄る薬局では、先に病院で受けた負担金の支払い証明を提示することで薬剤料の支払いは必要ない。が、出される薬の量は膨大である…。
 
 いつも病院を出るのは13時頃である。自分の主治医はこの病院の診療科の中でも受け持ち患者が多いらしく待ち時間は長めだ。診察の時間は本当に2〜3分で、症状について話しているよりは次回受診日の相談をしている時間の方が長い。
 休職していた同僚の業務を一部肩代わりしているせいもあってか、休める日が少なくなってきた。2ヶ月後にようやく主治医と日程が合いそうな一日を見つけたが、今度こそは転医の話を決めなければ。