ぼんぼりオーケストラ。

 意外に早く眼が覚めた。泊めてもらっているのにいつまでも惰眠を貪っていれば失礼だという気がするのは事実だが、そもそも厄介になり過ぎだという気がかりも徐々に強まってくる。次からはN氏宅にでも転がり込むことにするか…。
 先に起床していた妻が「今日の午後からぼんぼりオーケストラってやってるんだって」と、またまたブラフを掛けられた。そうか、と知らぬ顔をしてみたが、鞄の中には一ヶ月前に購入したチケットが入っている。まぁ、俺は「行かない」と言わない点で嘘は付いていない。
 よく利用する銭湯に行き、そのままN氏に連絡を取った。N氏は今日は所用で不在だが、夜には時間があるというので合流することにした。
 正午頃には金沢駅に入ったが駐車場には長い待ち行列ができていた。新幹線開通後、これだけ大量の駐車場があったというのに駐車場不足が深刻化しているそうだ。
 もしかすると間に合わないのではと不安に感じ始めた頃にどうにかブリットを停めることができた。
 
 金沢駅を通り抜けて県立音楽堂に入ったのは、開門時刻を過ぎた頃だった。地下ホールに申し訳程度の物販コーナーが開設されていたが、俺が着いた頃は客もまばらだった。
 昨年と同様に観客は男性が多かった。昨年は一般客も混じっていたが、今年はほぼ完全にヲタクで全席が埋め尽くされた印象だった。指揮者が「私もこんなに男ばかりのコンサートで指揮するのは初めてで」と笑いを取るような状態で、主要な出演声優が揃って朗読を披露するのでまさか暴走した何者かが無粋な奇声を挙げたりするような事態でも起きないかと密かに恐れていたが、全く杞憂に終わった。皆紳士だったのだ。




 今年は予約サイトにアクセスするのが遅かったせいで席はずっと後ろの方になり、昨年のように演奏者の息遣いまで聞こえるような迫力は残念ながら感じられなかった。残念だったのはもう一つ、演奏が始まっているにも関わらず、何度も遅刻してきた観客がバタバタと走り込んで来て足音がひどく邪魔だった。慌てる気持ちも分かるがもう少し気遣いしてほしいものだ…。