月食。

 レセプト残業が早めに終わり、今夜は残業なしとなった。
 I君など若い者を先に帰らせて残務整理をしていると、ボスが言った。
 「今夜は皆既月食でしょ。もう始まっているみたいだけど、写真は撮らないの?」
 あいにくとSIGMA 50-500mmは父に貸し出しており、手元にある望遠はEF70-300mmISだけだ。大してズームできないし、残業になるはずだったので今回は眺めるだけにしようと思っていたのだが。
 それに今から退勤手続きして適当なロケーションで準備をしても食の最大の時刻にはギリギリだ。
 今夜は止めておきます、と答えて医事係を出た。
 ロビーから正面玄関前を見ると、入院患者さん達が何人か路上に集まって夜空を見上げている。自分も一緒に月を見ると、そろそろ半分ほどが欠けてきたあたりだった。
 こうして見るとやはり撮れるものなら撮っておきたいという気になってしまう。
 職員用駐車場からブリットを出して、広い外来患者向け駐車場に移動した。ここは平面で言えば院内の他より少しだけ基準点が高いので見晴らしがいい。
 ラゲージルームを見るといつも使用している三脚がなかった。先日アパートで撮影するのに持ち帰って、ブリットに戻していなかったのだ。代わりに自立用のミニ三脚がオマケに付いた一脚があったので我慢して使う。
 6Dと300mmで月を見るがやはりズームアップでは物足りなかった。しかしながら、それなら最初から天体望遠鏡で撮影している人にはかなわないのだから、広角側でうまい構図を考えればいいか。すると今度は何も障害物がない駐車場で何をフレームに入れるのか悩むことになった。
 結局、最大食から終わりまでを125mm前後で多重露光してみることに。

 マニュアルモードでISOも6400固定にしたが、最大食と終わり頃までの各コマでどう露出を変化させていけばいいのだろう。初めでは暗すぎ、終わりでは明るすぎる。やはり各コマごとに露出計が適正範囲内になるようSSと絞り値を変えた方がいいのだろうか。
 その練習のチャンスはまた来年にあるらしい。