撮影旅行羨ましい。

 気がつけば23時を過ぎ、次の店へと向かう。ただ明日も仕事であるのでそこを最後にするため、いつも締めに使う蕎麦屋へ。なぜか蕎麦と餃子が売りのお店。
 やはりここも客はいない。Z君と二人だけで安いMIDORIを啜りながら突き出しのカレイの干物をかじりつつ餃子の焼きあがりを待つ。
 Z君とカメラの話をしていると、おかみが時々質問を挟んでくる。曰く、ビデオカメラから画像を取り出したらデジカメと同じくらい綺麗になるのか、あるいは貴方達は写真を焼く時はどんなサイズにすることが多いか、焼くなら自分でカラープリンタを使うか、町の写真屋に頼むのか、等等…。
 えらく具体的な質問ばかりである。
 もしかして、とおかみに「もしかして写真をされているんですか?」と尋ねたところ、されているというほどでもないのだけど…との返事。何でも旅行に行って写真を撮っていたら、最近は逆に撮影旅行が楽しみになってしまったという。
 もしよければ見てほしいと、カウンター内にそっと置かれていた封筒からA4に焼かれた写真を数葉手渡された。Z君はそこに写った建物は知っているが名前は出てこないようで目を見開いて固まり、俺は思わずその建物の名前を叫んだ。
 「ブルジュ・ハリファじゃないですか!」
 現在世界最高の塔を足元の街路から見上げた構図の写真だった。銀の細長い塔が下から伸び、隙が気になる空の部分には街路樹の梢が配置された見事な構図。
 もう一枚は別の巨大なモスクのドームを収めたもので、夕暮れの日差しでドームの曲線にできたハイライトが美しい。
 「人を写すのはあまり好きじゃなくて、人気がなくなるまで待ったりとか、ちょっと光の加減が気に入らなくて、添乗員さんに予定変えてもらったりしたんだけど」とはにかみながら言うおかみ。海外行ってそこまでやるか…。
 ちょうどテレビではアメトーーク!のカメラ芸人が放送されており、出された蕎麦を啜りながら3人で写真の話が弾んだ楽しい夜であった。