9801BX3復活。

 昨日、別部門が管理するとある通信システムに接続されたPC-9821Ra266のHDDが死んでしまった。
 起動するとDOS3.3DのMSDOS.SYS読み込み中にエラーが起き動作が停止する。まれに起動を継続してくれることもあるが、FEPやその他ドライバの読み込みあたりでやはり停止する。一度正常に機能しているところを見たときはDOS上で業務アプリケーションが動いていたはず。
 本来、ユーザサイドで保守する機材でないためHDDクラッシュに備えたバックアップやリカバリの類は全く準備されていないという。
 機器本体とRa266の接続がCバス上のインタフェースボードによるものだったため、余りまくっているPC/ATマシンでは代替できない。保守業者も代替機材をすぐには用意できず、社内を探してみたいと言っているらしい。
 確か、俺の以前の勤務先の病院で大量に使用していたXa13をこんな時のために1台譲ってもらい、当該部門で保管してもらっていたはずなのだがなぜか見当たらないという。もしかしたら廃棄してしまったかもしれないと部門長は言う。アホか。しかも保守業者もそのXa13があるので安心していたとのこと。保守料取っててその態度かよオイ。
 Xa13がまだ残っていないか先輩に問い合わせるが全部廃棄済との回答。むしろ自力で機材集めるよりメーカーに死ぬ気で修理させろとのお叱りを受ける。何で俺が叱られるんだ。
 通信システムが復旧するまで業務は停止状態なので何とかしてほしいと部門長は言う。アンタが何とかするんだろうが。俺も今日は忙しいんだと思いながら、手を出してしまう自分。
 とりあえず、通信システムから切り離されたRa266からHDDを取り出してWindowsXP端末に接続し状態のチェック。今は懐かしいWestanDigitalのCavier、容量は2.1GB。パーティションは基本のみで、DOS3.3Dならその容量は32MB、もしくは128MBか。もちろんFAT16準拠とはいえ当時のNECは何もかも独自路線(SCSIすらNEC専用規格のをでっち上げていたくらい)で、WindowsからはHDDハードウェアを認識することはできてもパーティションをマウントすることはできない。
 だがP-ATA経由で見えているなら処理はできるので、HDD Regenerator不良セクタの復元を開始。やはり不良セクタだらけになっており全体の2割ほどのセクタが不良、その内復元が可能だったものは更に4割程度。あまり状態としては宜しくない。また読み取り遅延も多発し、開始から9時間経過しても2割ほどの進捗に留まっている。
 平行して他の9821の捜索。出先に古い9821が残っていないか確認すると共に、たまたま来ていた基幹システムの保守業者に出入りしている顧客で余剰の9821を抱えているところがないか紹介を頼んだり。中古機材の通販も考えたが、部門長は中古品をわざわざ買うことに抵抗するので断念。そんなに直して欲しければ文句を言うな。
 ほぼ一昼夜経過した頃、通信システムの保守業者から9801BX2を1台確保し業務アプリケーションを含めHDDのイメージも揃ったので復旧の見通しが立ったとの連絡があった。
 大騒ぎしたが、これで一安心。そう思って自分の仕事に戻った。
 終業間際、やってきた保守業者から8ピン・7ピン2段コネクタのディスプレイケーブルがないかとの問い合わせ。持ち込まれたBX2は9801独自のアナログディスプレイコネクタだったため、こちらに設置されていたVGAモニタが接続できなかったのだ(9821Ra266はWindows3.1J対応後の機種でVGAコネクタを採用)
 本体があってもモニタがなければ操作もできない。業者もどうしてモニタも併せて持ってこないのか。
 復元中だったHDDも、先頭から3割程度の処理が終わったため基本パーティション部分はクリアになったものとみなしRa266に再接続して起動を試みたが、状況は改善していなかった。
 こんな下らない事で、保守業者も手詰まりとなった。作業スペースとなったテーブルに、無為に置かれたBX2とバラバラのRa266。
 15年以上運用し続けてきた現行システムを更新していなかったのが致命的な原因だが、新しいシステムは5,000万円以上するらしくそんな予算はどこにもない。
 時刻は23時を過ぎようとしていた。
 小さなシステム操作室で考え込む関係者一同。やはり中古の9821を至急調達するしかないのでは、と部門長に重ねて進言するが全く乗って来ない。今日にも修理しろと無関係の俺にまで要求するくせに、カネが掛かる話は聞く耳を持たんではないか。
 その時、部門の係長がポツリと言った。「…そう言えば、何年か前に『機材捨てることがあったらまとめて処分してくれ』と言われて出先から古いモニタやら預かって来たことあったなぁ…」
 もしかしたら使えるものがあるかもしれないじゃないか。もっと早く言えよ。
 係長がそのモニタを調べに向かう。戻ってきた彼のメモには「PC-KV1521」と記されていた。
 キターーーーーー!9801専用モニタ!
 それが転がっているという車庫兼倉庫へ台車を押して走った。雨風吹き込む東屋同然の倉庫に確かにモニタはあった。それどころか、その側には9801BX3まで置いてあるではないか!。
 スゲー。でも動くのかこれ。普通に雨かかった跡あるし。
 操作室に戻って発見されたホコリまみれのBX3とモニタを接続して起動テストしてみると正常に動作。驚く事にWindows3.1がインストールされていた。
 このBX3に、業者が持参のBX2のHDDを移植。これが起動すれば問題解決!のはずだ。業者も逸る手でHDD組み付け。M/B上のi486SXが輝かしい。
 しかしDOS3.3Dが起動するところまでは良かったが、その後画面がブラックアウトして動作しないとのこと。理由が分からず再び考え込む業者。
 よくよく画面を凝視していると、DOS画面の直後に一瞬BASICインタプリタの起動画面のようなものが見えるような気がする。もしかして、とブラックアウト後にSTOPキーを押してやると、
 Break in line XXX
 Ok
 おいこれN88BASICだよ…。
 じゃあ止まってる原因も簡単に調べられる。停止行ではPRINT #1でデータの書き出しが行われており、その手前のOPEN命令ではCOM1が指定されている。停止行のPRINT命令で通信確立のため相手の応答待ちになっているのだ。
 通信システム本体との接続を復元してやれば問題ない、と業者に伝えて作業してもらう。
 その結果、正常に起動する事が確認できた。
 
 えーっと、復旧できず、新システムに更新した場合5,000万円。
 すると、このBX3は5,000万円の価値がある?。