ガンダム像。

 東京で展示されている実物大ガンダム像が次のイベントに備えて来年初めに撤去されると聞き、今のうちにと見物に行くことを思い立ったのは週の初めだった。
 ガンダムネタなら必ず同伴してもらっているN氏だがあいにく色々多忙とのこと。
 妻はと言えば週末は何か仕事が入っているとのことで、うまい具合に単独行動できそうだ。

 出かける当日になって、妻の仕事が東京出張だと聞かされた。今月初めには既に話したはずだと言われるがさっぱり覚えがない。お前は私が不在の時を狙いすまして一人で好きな所へ遊びに行くじゃないか、それだけならまだしも同じ行き先へそれぞれ別に金をかけて行くなんて無駄の極みだ考えられないと散々文句を言われ足止めを食うことになった。
 どうやったって同一行動できないのに文句言われたって困るだけだ。

 結局出発は目論見よりはるかに遅れて夕方になってしまった。金沢駅から新幹線かがやきに乗ってわずか2時間で東京駅。何と楽な時代になったものだが、着いた頃には既に夜の帳が降りた後だった。
 東京駅からいつものように秋葉原へ移動し今夜の宿を探したが、悪いことは続くものだ。前回来た時は秋葉原と言いながら実質浅草橋にあった東横インに泊まって不便を感じたのでもっと近い場所を調べて見つけたのがアパホテル秋葉原。ところがうっかり価格を確認せずに予約を入れてチェックインし、カウンターで提示された宿泊費は何と17,000円。土曜日だってのは良く分かるが何を思って17,000円なんて値付けしやがるんだ。朝から妻とさんざん言い争って随分疲れていたので、二度と泊まるものかと固く決心して黙って部屋に上がることにした。

 翌朝はとにかく早く行動を開始し、宿は8時過ぎには出てしまった。
 こんな早い時刻に営業している観光スポットなどないのだが、昨夜の寝入り間際に思い付いた「君の名は。」の聖地巡礼をするためだ。
 まずは秋葉原駅から中央総武線に乗り、御茶ノ水駅で乗り換えて四ツ谷駅で降りる。そこから徒歩で須賀神社前の階段に向かう。 キービジュアルに使われ、作中のラストシーンの舞台になったあの階段である。
 作中の雰囲気が一番出るのはやはり夏場の太陽が真上にある時間帯だろうが、今の季節なら晴天の早朝が光の回り込みがイメージに近くなるのではないかと思っていた。

 大失敗だ。580EXも持参すべきだった…。
 早い時刻だったが先客が何人もいた。皆イメージ通りのアングルで写真を撮ろうと頑張っている。
 ふと振り返ると、大学生グループが旧ペンタックスの645Dを三脚に据えて撮影準備を行っていた。邪魔にならないよう撤退。
 そこから徒歩で住宅街を歩き今度は信濃駅を目指す。このあたりは創価学会の本部があるためか、どこを向いても関連施設で三色旗と標語が目立った。
 信濃駅の改札を出たところに3つのロケハン場所がある。
 一つ目は外苑東通りをまたぐ陸橋。駅から渡って階段を降りるところで振り返ると、滝が三葉へ繋がるはずのない電話を掛けた場所になる。

 二つ目。信濃駅前から西の方角を眺めるとあの特徴的なドコモタワーが飛び込んでくる。可能であれば西日が落ちるギリギリの時刻に来てみたいが…。

 三つ目はその駅前の外苑東通りをまたいだ西側の歩道。最後に滝を探して三葉が走るシーンに登場した場所だ。

 
 この時点でまだ正午前。今からお台場に移動しても余裕があり過ぎる。ガンダムフロント東京を見て回って16時頃に秋葉原に戻り、中古カメラ店やPCパーツショップを回る時間も問題ない。
 信濃町駅からJRとりんくう線を乗り継いで東京テレポート駅へ、そこから徒歩でお台場を横切ってダイバーシティに入る。
 今回の目標、実物大ガンダム像が見えてきた。

 周辺は観光客で溢れている。
 観光客だけかと思いきや、この広場ではよくわからないアイドルグループがライブの最中で、ガンダム像周辺がファンで埋まっていたのだった。
 かなり黒率の多い服装のその集団がアイドルの煽りに合わせて奇声を上げる。
 撮影禁止のライブのすぐそばでカメラを構えるため、ライブのスタッフから身振りで「撮影禁止です!」と何度か注意された。

 展示開始からかなり年数が経っているが劣化もほとんどない様子。洗浄や再塗装などうまくメンテナンスされていたようだ。



 一定時刻になると背面の大型スクリーンなどと同期したアトラクションも見られる。頭部が動いたりするだけで大したものではないのだが、見物客から歓声が上がっていた。
 ダイバーシティ東京の建物のすぐ近くに立っているため、スケール感がない。正直に言って作中の演出どおりに人間が乗って操作するとしたら全高18m程度では小さすぎるのだが、この実物を見るとその印象がなおさら強まってしまう。
 折角来たのに何故かあまり満足できないまま、広場を後にしてダイバーシティに入った。
 
 ガンダムフロント東京ガンダム像の撤去に合わせて営業終了するというので恐らく今回が最初で最後の見学になる。
 エスカレータを登りきって入り口にたどり着いた俺だったが、変な注意書きの前に立ちすくむことになった。
 「本日はガンプラビルダーズワールドカップ世界大会決勝開催のため、一般の方の入場は16時からとなります」
 えっ?。
 現在の時刻は13時。後3時間、何して待てばいいの?。
 今更GFTのWEBサイトで今日の営業内容を調べると、16時の一般客入場前に待機列を作るので30分前には入り口に集まるよう書いてある。
 ここからまた駅に戻って他へ行くことも何とか可能な時間はあるが、それもひどく面倒に思えて来たのは少し歩き疲れてしまったせいか。
 下調べせずに来た自分が悪いのだが、重い荷物を持ったまま館内を徘徊するのも馬鹿らしい。
 この館内とにかく休憩できる場所がなかった。一番下のフードコードまで降りても空腹でもなければ喉も乾いていない。
 すぐ下のフロアにあるROUND1で時間を潰すことにしたが、ゲーセンで過ごすにも小銭がもったいなくなってきた。何でここまで来てゲーセンなんだ。
 一向に進まない時計の針が苦痛だ。やっぱり館外に出て他を見物して来るべきか?迷っているうちに少し時間が進んだが、それは館外の選択肢がなくなっていくことを意味する。結局2時間とGFTの一般入場の待機列での1時間、何も得るところなく時間を空費した。
 そうしてやっと入場できたGFTだが、営業開始当時に話題になった原寸大のコアファイターア・バオア・クーを再現したジオラマなど展示品を見学しても何故か興味を惹かれなかった。単に疲れ過ぎていたのだろ。
 ガンプラ用の成形装置や製品化までの半完成品を展示したコーナーだけは楽しかった。いわゆる色プラと呼ばれる多色成形キットを初めて手にしたのは機甲戦記ドラグナーの頃だったか、必ず塗装はする派だった自分もキットの素材が色分けされているのには感動したものだが、今では色どころか鎖のような組み立て作業必須のはずの多部品のパーツが「組み上がった状態で」ランナーにぶら下がっているとは…。
 ある部屋ではこれまで発売されたガンプラが全て展示されていた。小学生から中学生の頃にかけて暇を見ては作っていた多数のキット達を懐かしく眺めながら、やがて場内に家族連れが溢れて来たので引き揚げた。