DMC-FT2回収。

 今日は夏季休暇。
 職場の規則上、7月から9月末までに少なくとも計5日間の夏季休暇を取得しておく必要がある。もちろん連日でなくても5日間も仕事を休めるような暇な部署はなかなかないが、この辺の労務管理については数年前から徹底が非常に厳しく要求されていて俺もボスから部下に必ず取得させるよう申し渡されていた。
 事前に取得計画表を作成することになっており、係員にはそれぞれ希望日を報告するよう指示した。同時に何人以上は休んではいけない等の規則もあり、若い者に優先的に選ばせて俺は誰も希望しない残った日を選ぶことにしたが、結果的に8月は2日分しか残っていなかった。
 
 さて、先日DMC-FT2を海水浴場の最深部に沈めてからはや数日経ち、そろそろ内部への浸水が心配になってきた。そもそも海底の砂地に埋まってしまえばもう発見は絶望的で、意外に海流が速いあの現場ではそうなっている可能性も高いが、あきらめきれない。
 妻は「翌日あたりに誰かが見つけてゲストハウスや警察に届けているのでは?」と言うが、本体色がグレーのDMC-FT2が砂を被った状態で誰が目ざとく見つけるだろうか怪しいものだ。
 海中での視界確保が必須だが、近視で眼鏡利用者の俺に使える水中眼鏡はないので代替策をとその日の夜に考えていたところ、Amazonで簡易的な視度補正レンズ入りの水中眼鏡が見つかった。中国製で1,400円と意外に安かったのでお急ぎ便指定で購入。それがちょうど今日届いたので試着してみると、お値段以上の効果があった。商品紹介ページには記載されていない偏光フィルム付きで暗所では光量が不足しそうな気もしたが、これなら運転中のサングラス代わりにもなりそうだ。…見た目を気にしなければ。
 妻が言う通り拾得の届けが出ている可能性もあるので、念のためPanasonicの製品紹介ページでDMC-FT2の外観を印刷しておく。
 
 さすがに陽の高いうちに海水浴場に行っても多数の家族連れなどで混雑しているのが分かっていたので前回より少し早い15時過ぎまで待って行ったが、それでも駐車場に空きスペースはなく路駐も多数の大混雑だった。
 そんな中でオッサンが独りで水中眼鏡で潜水を繰り返していると不審者にしか見えないではないか。
 もっと人が減ってからにしようと暑い中エアコン全開のブリットで待つが、それはそれで時間を無駄にしてしまうのが馬鹿らしくなってきた。ゲストハウスでソフトドリンクでも買うついでに拾得物の届けがないか聞くだけ聞いてみよう。
 というわけでブリットを降りて歩き、防風林を抜けて見えたのは先日同様雲一つない快晴で真っ青な青空に白いビーチ、そして群れなす若い男女と家族連れ達。ゲストハウスのカウンターにかき氷やアイスクリームを買い求めようと水着の若い娘さんたちが列をなしている中、疲れた表情のオッサンも独り並んでみた。
 カウンターの向こうではバーベキューエリアを借りに来たらしい汚いTシャツを着た黒くて汗臭そうなDQNが二人ばかり、無理筋な値引き交渉を仕掛けて応対している店員を困らせていた。しばらく押し問答が続いたが「次もぐだぐだ言ってるとぶっ殺すぞテメェ」と捨て台詞を吐いて立ち去っていく。夏のビーチはいつでもどこでもDQNが沸く。暖かいサーバにたかるゴキブリ同然だ。
 ようやく順番が来た。直射日光の下で長時間立っていたため貧血を起こしかけていた俺は店員のお兄さんにソフトドリンクの注文を忘れていきなり「こんなデジカメの落とし物って届いてないですか?」と素っ頓狂に尋ねてしまった。
 「あっ!・・・それあります!」
 なんと。
 お兄さんはバックヤードにすっ飛んでいき、間もなく別の女性店員がやってきた。印刷していたDMC-FT2の写真を見せると「ああ、これ届いてますよ」と、まぎれもなく俺のDMC-FT2を手渡してくれた。
 「引き取りにあたって何か身分証明書とかいらないですか?」と尋ねたが、女性店員は少しニヤニヤしながら「まぁ同じ型のカメラの写真も持ってきているし間違いないでしょうから」と言う。
 「ちなみにバッテリ切れみたいでエラーが出ますから」と言ったところを見ると、恐らく記録画像を再生して海中で自撮りした俺の間抜け顔を見ていたに違いない…。
 
 喜び勇んでアパートに帰り、真水にわずかに家庭用洗剤を混ぜたところへDMC-FT2を沈めて砂抜きをしたところマイクや各ボタンの開口部から細かい砂がこぼれてきたが、シリコンジャケットを着せていたためか外見上の破損はなく浸水もなし。乾燥後の動作テストにも異常は見つからなかった。
 
 拾ってくれた方、本当にありがとうございます。