DMC-FT2喪失。

 今年の夏が終わるまでに一度は海水浴に行こうと思っていた。
 気が付けばもう8月も半ば、海の水もそろそろ冷たくなりクラゲが漂い出す頃だ。
 妻は知人グループと登山の計画を立てており、俺の方が何もせずに夏を終えてしまうことを心配している様子だった。
 それでこの週末に泳ぎに行くことにしたのだが…。

 近所の海水浴場は県内では透明度・水質とも最高とされている。時間帯によっては沖合からシラスの群れが遊泳区域まで流れてきて、ここにDMC-FT2を持ち込んで水中でフラッシュを発行させて撮影すると見渡す限り銀色に光るシラスが広がったなかなか美しい写真が撮れる。
 一昨年撮影を試した際には、撮影中にDMC-FT2のAFユニットが故障してしまい失敗。その後修理したが再度試す機会がなかった。
 既に購入からかなりの年数が経過したDMC-FT2。本来なら2年おきにメーカー送付して開口部の防水シール部品を交換しなければならないとされているが、実際に行ったのは一度だけだ。シーズン前に律儀に交換しておけばよかったが今さら間に合うわけでもなく、代替としてシール部品のゴムパッキン周辺を清掃しシリコンオイルを塗布しておいた。もう破れかけたシリコンジャケットも被せておく。

 さて海水浴場に着いたのは例によって夕暮れの17時。今から泳ぎ始める奴はそうそうおらず、浜辺に出てみると人影はもうまばらだった。その代り遊泳エリアの境までだばだばとだらしなく泳いでも誰にも迷惑をかけない貸切のような状態である。
 一緒に来た妻は適当にその辺で浮いている。俺は一番深くなる遊泳エリアの奥まで進み海中の様子を窺ったが、今日は魚影が少なく、また陽も落ちかけている海面下は華やかな水色から徐々に暗い濃紺へと変わり始めていた。
 首からストラップでぶら下げていたDMC-FT2で海底の砂地を撮影すると時折魚が写るが、被写体ブレで種類まで見分けられない。そもそもの問題として、俺は水中眼鏡を持っていないので撮影時には適当にDMC-FT2を水中に突っ込んでレリーズするだけなのだ。それでまともに撮影と呼べるのか…。

 そして事故は起きた。
 足元で動く魚影に気付き、動画モードで撮影しようとしてネックストラップの長さが足りなかったのでクリップを外した。立ち泳ぎの姿勢でもちろんDMC-FT2はがっちりと両手でホールドしたつもりだったが、少し沖を通り過ぎた漁船のウェーキが遅れて俺にぶつかった際にうっかり落としてしまったのだ。
 点灯した背面液晶が見える方向へ足を延ばすと、うまい具合に足の甲に乗った!。しかしそっと手を伸ばしたところで再び転がり落ち、そのまま見えなくなった。
 ああ、なんてこと。
 恐らくレンズ面が上を向いて海底に落ちたようで、海面越しに見てもカメラらしいものは見つけられない。
 こんな時に限って水中眼鏡は持っていない。
 幸い肩までは露呈する水深だったのでそのあたりを足で探ってみるがヒトデや海藻の感触だけだ。
 妻に手伝ってもらおうと周囲を探すがはるか遠くの波打ち際だ。しかもこんな時刻なのでそもそも他に人がいない。一人で舌打ちしながらひたすら足で広い海底の砂地を探り続けたが手ごたえはなかった。
 10分ほど周辺を探したがどうも自分自身も少しずつ潮に流されていて落としたはずの位置の見当も怪しくなってきた。様子に気が付いた妻もやってきたが、遊泳終了時刻になり監視員から岸に戻るよう呼びかけもあったので、捜索断念。
 至近にあった遊泳エリアのブイと岸のゲストハウスの位置から落としたはずの位置を確認しておく。
 現場は水深1.5m程度なので恐らく浸水はしないだろうが、サイズからすると重量があるので海底の砂地に沈んでいくかもしれない。
 
 後日捜索の機会があればいいが…。