ぼんぼり祭りへ。

 義母が義弟夫婦宅に行っているらしい。妻が合流したいので送っていけと言っていたが、これは俺にとっては幸いだった。つまり今夜は湯涌温泉でのぼんぼり祭り当日であり、明日はオーケストラ・アンサンブル金沢のぼんぼりコンサートだからだ。
 無論妻にはそのようなイベントがあって、かつ俺自身が参加するつもりであることは全くの秘密である。
 しかしながら結婚生活も既に数年が経過し、日々の様々な局面において俺に関するわずかな兆候が妻にも感じられるほどに積み重なってきており(分かりやすく言えば俺がボロを出しているということか)、何気ない一言に妻のブラフが入り込むようになってきた。
 例えばアパートを出発する直前に妻が発した一言である。
 「今夜は湯涌温泉花咲くいろはってアニメのイベントがあるんだって。どんなことしてるんだろうね?」
 普段の俺は温泉嫌いであり、またテレビでアニメが流れ始めると無関心な表情ですぐに報道番組にチャンネルを変えたりしている。
 
 とは言え、このような趣味や行動をたった独りで行うというのは心細いものだ。ヲタ系の商業イベントが訴求対象にしている年齢層から自分自身が日増しに徐々に離れつつある今、同年代のヲタがそろそろこれまでのヲタ活動の成果を何らかの形で昇華して違う道を進んでいるところ、明らかに俺は遅れて後を追っているだけの様に感じられるのだからなおさらその思いが強くなる。
 例年同行しているF氏は、そろそろ地域コミュニティの中での立ち位置が歳相応に固まってきているようで休日も多忙であることが伺える。
 もう一人T氏はと言うと、どうも夫人との関係から少しずつイベントから距離を置かざるを得なくなっている様子だ。
 まぁ、それでいいのだろう。どうせ、いずれも俺もそうなるのだろうから。
 
 完全に俺の趣味趣向を知ってしまっているZ君からのLINEで彼宛に土産を求められた。すぐに思いついたものがある。祭りの数週間前からサークルKで始まっていた恒例のいろは弁当で、所定のシールを揃えると交換してもらえる入浴タオルだ。密かに買い集めた結果、後1枚のシールで2枚分のタオルを交換できるところまでたどり着いていた。もしやとZ君に聞いてみたが彼が集めたシールにはその1枚は含まれていなかった。
 県都についてから市内のサークルKを虱潰しに歩けばどこかで見つかるだろう。