聞く耳。

 今日の職場でのある人の態度にはさすがの俺もイラついた。
 仕事が遅いことは仕方がない。人が1時間以内で終える作業を2日掛けて同じ精度しか得られなくても、そういう人がいること自体は否定するような事柄ではない。必要とされるタイミングで仕事が仕上がっていれさえすればいいと思っている。
 しかしながら、若い後輩がはるかに手早くこなせる仕事を抱えて一人勤務時間を引き伸ばしながら、残業手当が付かないだの誰も苦労を理解してくれないだのとむくれていても状況は改善しない。
 昇進試験を受けないことは構わない。その時々の自分に見合った責任というものがある。責任感が人一倍強い彼女だからこそ、背負えない責任を単に一定の期間ごとにやってくる試験を理由に引き受けたりしなかったのも適切な判断だ。彼女には受けられる経験と能力はあると思う。
 だが、業務の配分や進捗の管理は昇進試験を受けて責任を背負うことに同意した者が任されることだ。一方的だったり能力に見合わない過大な業務を押し付けたりはしないし、できない。そうならないよう配慮がされている。それでも不満があるのなら、自分自身もその立場に立つ必要があるとも思う。
 仕事が遅いことを改善するのではなく仕事を与えるボスや職場に腹を立ててどうなるのか。
 仕事を取り上げたら、彼女の存在価値を何に求めたらよくなるのだろうか。
 いつも座って電話番とわずかな定型業務だけしていればいいような役回りはこの係にはない。俺と2年しか違わない年齢で就業経験は同じだけあるのなら、そんな仕事は許されない。
 
 終業後にまた一人で残業し始めた彼女の最後の態度を見て、歴代の彼女の上司が皆「どうしようもない」と嘆いた意味がようやく分かった気がした。
 その状況を改善するのは、俺の仕事だ。