牡蠣。

 妻が牡蠣を食べたいと主張していた。
 
 俺はこの土日になぜか無性にマックの100円バーガーがどうしても食べたくなって、最寄り(この酷い田舎から最寄りのマックまで何と100km以上離れている!)の店舗にドライブがてら行こうと企んでいた。もちろん妻はファストフード自体を健康に悪いと敵視しているので、何か適当な理由を付けて一人で出かけるつもりだった。
 ところがいつものように土曜日になるとまるで体が動かず、ずっと寝たきりになっていた。日曜になっても同じで、もはやマックも諦めてずっと寝ていたかったが、妻があまりにしつこいので出かけざるを得なくなった。
 
 この県内では穴水が牡蠣で有名であり、俺も昔友達と牡蠣の専門店へコース料理を食べに行った覚えがある。もう何時頃だったか誰と行ったのだったか記憶があやふやになっているが、味は良かったように覚えている。
 妻はどこか行きたい店があった様子だが、予約を入れようとして(予約が必要な高い店なのか)断られた。今週はもうずっと満席だという。
 現地で探すからとにかく向かえと言われてブリットを走らせた。
 まず1軒目はさる喫茶店だったが、そこは潰れてコンビニになっていた。
 のと鉄道穴水駅にも牡蠣料理を出す店があるという。13時頃に駅に着いたが、その店は大変な混雑で1時間待ち。妻はしばらく待ってみると言うので、俺は駅構内を散歩してみることにした。

 花咲くいろはラッピング列車、久しぶりに見た。もうかなり退色が進んでくすんでしまっている。確か3台あったうちの1台は既にラッピングが剥がされて永井豪のキャラクターを描いた別のラッピングに代わったと聞いた覚えがある。
 今日は久しぶりの好天で日差しが強い。できれば反対側のホームに行って順光で撮りたかったが、なぜか線路上をまたぐ連絡通路の中が牡蠣の炉端焼きコーナーになっていて通り抜けできなかった。
 その時偶然持ってきていたのはSD1Mだったが、数枚撮ったところでバッテリが尽きた。
 
 妻がどこで調べたのか、この付近にまた別の店があるはずだと言う。その場所には確かに店があって県外ナンバーの車も何台か停まっている。なぜか看板が何もない。
 店に入ると高齢の女将さんが出てきて、つっけんどんに「しばらく待って」と言われた。何組も客が入っていて女将さんも大忙しなのだが、あまりに高齢のため足元がおぼつかない。見ていてヒヤヒヤしたが、我々の前の客を案内する際にとうとう転倒してしまった。居合わせた客一同驚いて大丈夫ですか?と声を掛けたが、女将さんは小さな声で「大丈夫です」と答えただけで不機嫌そうな顔をして立ち上がった。
 ようやく順番が来て奥座敷に案内された。牡蠣を焼く炭火コンロが乗ったテーブルが3つ。換気扇がなく、部屋の中には炭火の煤と灰、そして牡蠣の焼ける磯の臭いが充満している。
 どうも女将さんとご主人の二人だけで切り盛りしている様子で、座敷の中はあまり掃除や片づけが行き届いておらずテーブルは前の客が使った汚れがまだそのままだった。女将さんと同じように高齢のご主人から焼けた牡蠣を殻むきするための軍手・ナイフと皿を渡されたが、皿もまた洗い場できちんと拭いた様子がないし軍手は使い捨てでなく洗って繰り返し使われているようだった。
 通常の4000円ほどの牡蠣コースと3000円未満のミニコースが選べるのでミニコースにしておく。それでも一杯に牡蠣が入ったポリバケツは壮観だったが、牡蠣はあまり大きくはなかった。
 コンロの炭火は弱火で焼けるのに時間が掛かった。室内だから火力をあえて落としてあるのかもしれない。しかしだんだんと頭痛がしてくる気がする。
 炭火で焼いた牡蠣は確かに美味しかった。食べ過ぎるとまた体調を悪くするのが分かっているので、1つ2つ食べて後は全部妻に任せたが、コースと言うだけあってカキフライと牡蠣の炊き込みご飯にお吸い物が付いてきた。カキフライは小さな牡蠣が一つづつ揚げられていたのであまり食べごたえがなかったが、炊き込みご飯とお吸い物は素晴らしかった。

 何というか、味はいいがそれ以外が何とも言えない店である。