集金。

 I君と未収金の回収に出かけた。
 未収案件は山ほどあるが今日の訪問の選択はI君に任せてあったが、出発して行き先を聞いてみるとI君と俺の地元だった。
 お前、知り合いの家に取り立てに行くつもりなのか。
 そこまで考えていないだけかと思ったら、とんでもない。知り合いだから取り立てやすいという俺の感覚と真逆の発想だった。オンゲ友達の親の未収金を息子から取り立てる、近所の自分の親戚の知り合いからも取り立てる。確かに実績は上がるが相手の心情に少しは配慮しろ。
 
 俺の実家の近所にある家にも立ち寄った。平屋で窓がほとんどない、潮風に灼けて灰色の杉材で、玄関は内も外も海砂を押し固めた土間。30年以上前にはこの辺りにもこんな家は珍しくなかったが、ベビーブーム世代が家長になるにつれてどんどん建て替えが進んで全く見なくなった古い家屋。
 恐ろしく近所なのに今までこんな家が残っていたなんて知らなかった。
 無施錠の玄関の木戸を押し開けると、くみ取り式トイレの汚物槽から立ち上がった臭突がなぜか玄関の中に排気していて酷い臭気が漂っていた。
 真っ暗な家の中へ何度も呼びかけたが応答はなかった。その声に応じてくれたのは道路を挟んで向かいの家の住人で、高齢の男性が一人暮らしで、日中はどこかへ仕事に行って留守だと教えてくれた。
 家屋の様子からして、仮に面談できても果たしてどれだけ入金してもらえるだろうか…。
 
 帰りがけにその住人の氏名を見ていてふと思い出した。もしかして、20年程前に交差点の信号無視で俺の車に側面衝突してくれた相手ではなかったか…。