魚の群れに。

 夏ではあるが、夏らしいことはほとんど何もしていない。
 休みになればエアコンを効かせたアパートの部屋で昼過ぎまで眠っている。加齢のせいか持病のせいか疲れやすくなっているのは間違いないが、眠って時間を浪費するのもどうかとは、常々思っているところではある。
 今日は天気が良かったので、海水浴でもどうかと考えた。お盆を過ぎるとクラゲが増えて泳ぐどころではなくなってくるし、お盆前の休日は今日が最後。行くなら今しかないのだが…なかなか体が動かない。
 ぶつぶつと行くか行くまいかと自問自答していたが、その様子を見ていた妻がそんなことも決められないのかと怒りだした。休みに文字通り休むか何かをするのか、別に義務でも仕事でも何でもないことで迷うことも許されないのか。
 昨夜から着たきりでずっと寝ていたので着替えようと思い衣装ケースをひっくり返したら、去年使った後で洗って仕舞い込まれていた海パンが出てきた。
 なら、行こうか…。
 
 近場の海水浴場に着いたのは午後も遅く15時前くらいだった。もう客のほとんどは帰り支度を始めているような時刻だったが、夏の一日は長い。
 例によってDMC-FT2を持って来ていた。普通の海水浴場だと、ちょっとした潜水具などない状態で行ける範囲では潜ってもそれほど撮って楽しいものがあるわけではない。被写体は視界の先まで続く砂地と波紋、生き物がいそうな岩場もない。日差しが強い時なら水面下2mくらいまで頑張って潜り見上げて撮影すれば青い水面をすかして見える太陽がきれいに写るが、困ったことに去年くらいから潜るとほぼ確実に副鼻腔炎になってしまうようになりあまり無理はできなくなった。
 それでも普段は撮れないような海上からの風景など撮りながら泳ぐ。実は意外に難しい。大した技術がいるわけではなくどうせDMC-FT2で立ち泳ぎしながらレリーズするのだからiAモードでフルオートを使うだけ、しかも波に揺られながらのため手ぶれ補正も不十分であまりまともに撮れることはないのだが、近くに他の客がいるとカメラを手にしているだけで盗撮目的と誤解されてしまう危険がある。
 そもそも首からカメラを下げてそのままドボンと水中に沈めている様子はそれなりに注目を集めるのだが、レンズを向けた方向に他人がいると嫌がられるので、なるべく規制線の限界まで沖に出てから撮影する。それでもなるだけ妻には近くにいるようにしてもらい家族で来ているアピールもそれとなくしてみるのだが、妻は深いところは怖がってついてこないので撮れる機会は少なくなる。
 
 1時間ほど泳いでいるうちにやはり海水を吸ったようで鼻の奥が痛み出した。もう一度規制線まで行ったら、帰るか…。そう思いながら規制線のブイを眺めていた。
 今日は風がほとんどないせいか海面は波も少なく浮いているのも楽だ。
 急にブイのあたりの海面が細かく波打ちだした。そこだけ風が吹き下ろしているのだろうか…。それが、一気に数十mの範囲に広がり、こちらにもどんどん近いづいてきて、水面下の足に何か小さな泡がパチパチとあたるような感触がし始めた。
 カメラを構えて潜ってみると、その波の下にいたのは無数の小魚の群れだった。視程の果てまで小魚で埋め尽くされていて、すさまじい速度で渦を巻いている。渦の頂上が水面にぶつかり、飛び出した小魚が波を立てていた。
 水中で小魚が銀色に光って飛び回っている。見事な光景だ。
 FT2を沈めて何度もシャッターを切るが、なぜか合焦しないため撮影できない。動画モードで撮影すると、記録はされるがやはり合焦せず、ほとんど全てピンボケになっている。
 取り上げて調べてみるとAFユニットが正常に動かなくなっていて、電源が入っているとずっとガタガタと音を立てている。よく見るとレンズガードの内側にかなり強い曇りもできており、浸水してしまった可能性もある。
 購入してから3年ほど経っていたか、防水パッキン周辺にはシリコンオイルを塗布するなどある程度気を使っていたのだが。
 
 帰宅してから電池室内の漏水インジケータを調べると、変色はなく正常だった。電池室と各種端子のフタに異常はなかった。マイクロホンか、各種ボタンの水密シールが破れてそこから浸水したのかもしれない。
 週明け、修理に出すことにする。