ネット上での再会。

 数日前から妻がWEB上のサービス、GoogleストリートとFacebookについてしつこく聞いてきていた。どうやって使うのか、実名登録というが個人情報の保護はどうなっているのか等等。
 妻はネットリテラシーは低い。一応副業でインターネット上での消費者保護なんていう仕事もしているのにこんな有様でいいのかと疑問に思うくらい、ネット上のサービスを知らず使い方もわからない。
 そんな妻がFacebook…。理由はわからないまま、ひと通り概念と使い方を教えてやった。俺自身はFacebookのような個人情報を垂れ流しにできるWEBサービスは信用していないし使う気にはならないためアカウントは持っていないが、仕事で広告業務のためのテストアカウントを作っている。
 
 今日取材から帰ってくると妻が言った。
 『Facebookてすごいよね!』
 いわく『知り合いの名前を検索してみたら何人も出てきた』だの『趣味も仕事もまるわかり』だの。
 こういうのは初期のmixiと一緒で、自分が将来に渡って無欠の善人でいられる自信過剰な奴か、おかしな奴に付きまとわれる不安もない奴ばっかりなんだろう。そうは言わなかったが「このご時世、実名出してるのは危なくない?」と答えた。
 それで話は終わりかと思ったが、ふと気になったことがあり妻に尋ねた。
 「もしかして、前彼の名前で検索したらすぐ出てきたとかじゃね?」
 あたりだった。
 いかにも昔の知人を探していましたなどと白々しい小芝居などしなくていい。最初からそう言えばいいんだ。
 見てみる?と言われて画面を覗くと、そこにはややくたびれた中年のおっさんの画像があった。
 あれっ?。
 妻の前彼は俺も顔だけは知っている人物だ。一流国立大を出てとある流通関連企業に入社し順風満帆の人生を送っていると噂に聞いていて(その噂は妻と前彼の共通の友人からのもので詳細はたいていボカされていたが)一度顔を見る機会があったが仕事もプライベートもうまく行っており充実した輝く表情が印象的だった。
 しかし、今Facebookに掲載されている画像の人物は、確かに「この人だ」と言われればそうだったかもというレベルで顔の輪郭は一致しているが、何と言うかかつてのリア充オーラが片辺も感じられないのだ。
 公開されている趣味はボーカロイド、ゲーム。好きな映画はブレードランナー。自画像の背景には綾波レイのポスターが写り込んでいる。
 これどう見ても俺側の人間じゃね?。
 俺側の人間かどうかはともかく…この人物が俺が知る当人と同一人物なのかを妻に重ねて尋ねるが、間違いないとの返事。
 『ボーカロイドって何よ』
 「なによもクソも、アンタがキモいと斬って捨てる初音ミクですよ」
 『ブレードランナーて』
 「人類史上2番目に素晴らしいSF映画ですよ。俺も完全版と最終版の2枚DVD買って持ってるし」
 『この背景にちらっと写ってるのってアニメの女の子じゃ』
 「綾波レイですよ。ちなみにそのポスターの画像は俺も持ってるわ」
 青い浴衣の綾波レイがうちわを片手に満月の川辺を歩いている非常に有名な一枚である。
 『あの…』
 「はぁ」
 『もしかしてこのステータスだけ見たらヲタクっぽい?』
 「まぁ、今時はカジュアルヲタもいるようなので別に…」
 『…』
 確かこの人既婚で子供いるはずなんだが、掲載された画像にはそんな気配が全くないどころか、「彼女・恋人募集」のステータス。
 なんだこれは。家族には内緒で遊びのつもりでやってるのか、それとも本当に離婚して独り身になったのか。
 昔はリア充だった男が落ちぶれておかしくなっているのを目の当たりにして開いた口がふさがらない妻である。
 『ゲームて。昔はゲームなんかしてる大人を見たら「精神年齢ヒトケタの馬鹿だから関わるな」って平然と言ってたんだけど』
 「歳月は残酷ですなぁ。気になるんならFacebookのアカウント取ってしばらく様子見てみれば?」
 『いいです。何かこれ見てたら悲しくなってくるわ』