訪問先で。

 午後から市内の訪問先を回るため、同僚Z君と外出。
 訪問先の道にはZ君の方が詳しいが、今回は住宅地図を見ながらの訪問となるため彼にナビゲートを任せて自分は運転を引き受けた。
 冷たい風が吹き付け続けるあいにくの曇天である。
 Z君は話し好きでアイディアマンでもある。車内でもずっと業務用のシステムの新しいアイディアについて語り続ける。自分の方は、どうも先日から熱っぽさが続いていて、運転しながら車酔いを始めており彼の話をやや聞き流し気味。
 
 数時間走り回り、ようやく今日の予定をこなし終わる頃。
 波が打ち寄せる緩やかな入り江のほとりにある最後の訪問先前でZ君を降ろし、車内で日報を記そうとしたときだった。
 車外から明らかに戦闘機のものと分かるエンジン音が響く、非常に近い。
 車を降りて入り江を見ると、濃い灰色の洋上に黒い機影が4つ見えた。F15Jが3機、それに追いすがるようにT4が編隊右翼端に1機、目の前の入り江の西から進入してくる。
 ふちをなぞる様に、手の届きそうな低空でこちらに下面を見せながら入り江の中ほどで右へ緩旋回し再び西へ戻っていく。恐らく正面に広がるG空域での訓練を終えて、入り江を終点にして小松基地に帰投するところだろう。
 普段は大抵ファインダごしに覗き見る編隊機動だが、今日はカメラを持ち合わせていなかったために自分の目で見ることになった。
 
 しばらくしてZ君が戻ってきた。あまりの爆音に飛行機が墜落したのかと思ったらしい。
 気分の悪さを忘れる一瞬だった。