虫。

 帰路の途中、県都が一望できる高台の夜景ポイントで先日に引き続き夜景の撮影を試みる。今回は先客がいて、カップルでああでもないこうでもないと仲良く撮影中。
 自分はあまり人が立ち入らない芝の空き地に入って三脚を立てた。前回と違って寒くないので撮るのは快適だったがあまり空気が澄んでいないのと、同じポイントでも徐々に草が伸びてきており邪魔をする。自分もああでもないこうでもないと三脚を担いでポイントを変えていると思いの外時間がかかったようで、車にいた妻が待ちきれずにこちらにやってきた。妻は自分のカメラは持っているがあまり写真に興味はないので、こちらの撮影の邪魔をしながら夜景を眺めている。
 ふと、彼女が「何だか足が冷たいんだけど濡れてない?」と、自身のサンダル履きの足に目を落とした。
 次の瞬間
 「きゃあああああああああああああ」
 10秒以上のとてつもなく長くて大きな叫び声を上げて足を振り回す妻。高台はおろか少し離れた店からも人が何事かと飛び出してきた。俺は何が起きたのか全く理解できず硬直。
 「ムカデムカデ!ムカデが足に丸まってた!いやあああああああああ」
 こんな暗闇で草むらに入るのにサンダルで来る奴がいるか。妻は脱兎のごとく車に逃げ帰って行った。
 回りの人々に伝わるかどうかあやしい「なんでもないんですオーラ」を発しながら撤収。