リブロハウス閉店。

 県都でF氏に会った。何か月ぶりだろう。
 先日F氏がメールで「リブロハウスが2月いっぱいで閉店する」と知らせてきた。
 はて、リブロハウスとは?聞き覚えがない。考え込んでいると、大昔F氏に連れられて一度行った同人誌専門店を思い出した。もう10年近く前になる。県都の住宅地の一角に、成人向け同人誌が詰め込まれた濃い店があったのだ。
 この田舎に同人誌専門店は極めて珍しいのだが、それも成人向けとなればここ以外に知らない。しかし自分だけでは行くこともなく、それきり存在を忘れていた。
 F氏はそれからも足繁く通っていたのだろうか。この田舎でもWEB以外でヲタクの空気に直接触れられる数少ない場所だっただけに彼の失望も甚だしかろう。というわけで、閉店期日前にF氏と会うことがあったら一緒に行ってみようかと思っていた。
 そのF氏とは意外に早くこの週末に会う約束となった。
 
 PCショップでDVR-BZ130の換装に使うWD20EARSを購入し、その足でF氏と合流、そこからリブロハウスに向かった。俺がかつてF氏と行った後に移転して、今は全く別の、やはり住宅地の真ん中にひっそりと店舗があった。しかしよく見れば外壁や入口にはA4サイズの控えめな同人ソフトのチラシが貼り付けられていて、一般人には近寄りがたいオーラを放っていた。
 駐車場が狭くブリットを押し込むのに苦労したが、もっと苦労したのは入店するために近寄ることだった。入口は歩道に直結し周囲の視界を遮るものはなかった。面した道路は通行量が少ないため、出入りが却って人目についてしまうのだ。普段からアダルト向けの店なんか来ることがないので戸惑ってしまう。来たことがあるはずのF氏すら躊躇する有様だったが、周囲を警戒しながら誰もいない瞬間を狙ってF氏に着いて入店。
 入るとすぐに閉店を知らせる張り紙があった。脱サラして古書店を始め、途中で同人誌専門に宗旨替えして移転もしながらやってきたが、店主の持病により残念ながら閉店するとのこと。店の奥でストロークの深い懐かしい音がするキーボードを叩いている男性が店主だろう。
 入った時他に客はいなかったが、我々のすぐ後に、明らかに我々と同じオーラを漂わせる高校生くらいの若い男の子が入ってきた。
 品揃えは全部成人男性向けの平たく言えばエロ同人誌とエロ同人ソフトだけで、棚や壁面はすがすがしいくらいの膨大なエロ同人で埋め尽くされている。来週には閉店という割には在庫が処分されている気配はなかった。
 F氏と二人で商品を眺めていたが、何かを買おうという気は起きなかった。F氏はというと超緊縮財政の最中でもあり買い物ができる状況ではなかったようだ。
 店内にいたのは10分程だったろうか。店主が奥の事務所に引っ込み、代わりに店に出てきたのは店主の奥さんらしき中年女性だった。この人が店内の3人を見る目があまりに冷たく半ば憐みを伴っていたのにいたたまれなくなったのか、F氏が「出ようか」と呟いて、10年ぶりで最後の訪問は終わりとなった。