事故か、いたずらか。

 今日は終日仕事。先日に引き続きHDDコピー。賽の河原で石積みの様相を呈しつつある。
 出勤前に、先日不在通知を置いて行かれた宅急便を受け取るべく最寄りの営業所へ向かった。荷物は配達のため持ち出されているとのことで、踵を返して職場に向かおうとブリットを走らせようとしたところ、あわや跳ね飛ばしかねない距離で俺を見つめる一匹の犬と目があった。
 スマートと言うよりはひどく痩せていて足取りもおぼつかないくらい弱っているのが分かる。
 それより、その極端なスマートさ、何かあるべき物が備わっていない違和感を覚えてこの犬を窓越しに見ていて、ふと彼?が頭に何かを被っていることに気がついた。
 どうやら、何らかの事故で塩ビの配管端か鉢植えの破片に頭を突っ込み、抜けなくなってしまったらしい。俺を見つめるその視線からは、これをどうにかして欲しいという懇願が伝わってくるようだった。

 ドアを開けてブリットを降りようとするが、彼は明らかにこちらに接触したいと思ってはいるがその距離感を計っているようで、俺が足を出せばその分だけ、手を伸ばせばその分だけ後ずさりしていく。
 被り物のせいで彼は真正面しか視界がなく、また耳も塞がれてしまって音があまり聞こえないらしい。死角から車が迫ってきても風圧を感じる距離まで近づかないと気付かないようだ。更に悪いことに、被り物は彼の鼻先よりも遠くまで伸びており、どう見ても食事ができるような状態ではない。
 とりあえずその被り物を引っ張って抜けるものかどうか試してみようと思ったのだが、田舎道とは言え何せ公道上で他の車の通行量も多い時間帯。俺が他の車をやり過ごそうとまごついている間に、彼は道路の反対側に渡って手を出せなくなってしまった。
 自分の時間もなくなり、後ろ髪をひかれる思いでその場を後にした。
 他の誰かが助けてくれただろうか。あるいは、実は飼い主のいたずらで、家に帰って外してもらえたのだろうか。